今日という日は残りの人生の最初の日

人生を充実させるコツは、より多くのものを好きになること。

要らなきゃ私がここで守ってやるよ ―『路地裏探訪』を聴いた感想

夕方はかなり涼しくなってきましたね。

コークハイで晩酌しながら書いてます。田口さん、グッズでマドラー出してくれないかなぁ…(いつもすぐ無くす)
暇なときにお読みください。
 

■路地裏探訪 feat.るりまる

▼Lyric&Music:るりまる様

Movieそふりど様
Vocal(ボカロ版):初音ミク
 
VOCALOID Ver.

 

 ▼田口さん歌唱Ver.

 
▼アルバムに参加した感想は?ボカロPアンケート!

 
▼”TA”Good Night LIVE vol.7 -路地裏探訪-

 

■田口さんによるレビュー

・映像がとにかく凄く凝ってて印象的。リリックの内容に合わせてカラスやゴミ箱や空気入れなんかが色々出てくる。カラスが擬人化したような女の子がニヒルな笑いを浮かべてて可愛い。
 るりまるさん「最高ポイントがたくさんあって書ききれないです。以前から一緒に制作したかったそふりどさんと共作出来て本当に嬉しかったです」
・「路地裏探訪」というタイトルに惹かれて聴いてみると、歌詞と映像の世界観に引き込まれる。薄暗い路地裏のジメっとした感じの雰囲気で、”風刺というか世の中の暗い部分”をウエットに表現している。
 るりまるさん「10倍強ぐらいに希釈していますが、『後ろ指を指す人は放っておいて前に進みますね、バーイ!』っていう主題です」
・間奏明けのサビに入ったところに琴の音が入ってる。ここはボカロ版の方が分かりやすい。MVのカラスがくちばしでツンツンしてるのは大正琴っていうらしい。
 田口「ジャズという洋楽要素の強い楽曲に日本の楽器の音が入るっていう音遣いのセンスが凄い」
・詰めるだけ詰めたようなリリックなので活舌と強弱のつけかたが難しかった。
・歌詞はボカロ版と田口さん版で若干違う。ミクさんは女性なので女性口調、田口さんは男性なので男性口調なところが一部ある。
 

■制作過程

・るりまるさんは公募での参加。
・田口さんが聴いたるりまるさんの楽曲で一番のお気に入りは「サカサマアストロノーツ」。ああいうポップでキラキラした感じが良いと田口さんからオーダーしたが、るりまるさんは「もっとジャズで田口さんの踊りが映えるような楽曲を作りたい」と言ってくれた。
・最初にデモを頂いた時、これはジュウゴノシンゾウの中で唯一のジャズであり、異色感があった。
 田口「ジャズってちょっと玄人感あるよねw」
・るりまるさん自身ダンスの経験はないが、曲全体をライブで想定した時に、(田口さんの)長い手足を活かしたキレのあるダンス、ゆったり大きく見せるダンスを意識して制作した。
・田口さんの前作「COSMOS CITY」を聴いた際、ジャズ風の曲が無かったのでさらなる魅力を、と思い制作した。
 

■るりまるさんのこと

・るりまるさんの楽曲は全てにおいてトラックメイクのセンスが凄い。曲調はポップだけど細部の音の作りに玄人感が出ててカッコいい。
・ボカロの調整も上手い。ボカロなのにビブラートがあんなに表現できることに驚いた。
・タイトルで「どんな曲なんだろう?」と思って、実際聴いてみると歌詞の情景・世界観にすぐに引き込まれる。
・ベースラインの使い方がめちゃくちゃカッコイイ。流れるような音階と耳に残るメロディーがとにかく気に入って、そんな疾走感のある曲をお願いしたいと思った。
・田口さんからお話を頂いた時から「あんなことやろう、こんなことやろう」とアイデアがたくさん出てきて上手くまとまるか心配だったというるりまるさん。全員分の曲が上がった時、各製作者の個性が全面に出てて超いいアルバムだと思った。
・他の楽曲で気になった曲は左手さんの「DIDA DIDA DIDA」
 るりまるさん「左手さんの曲はいつもメロディーが好きです。田口さんの良さが活かされたメロディーラインだと思いました」
 

■るりまるさんのオススメ楽曲

▼サカサマアストロノーツ

 

▼Melon Ball

 

▼死んで花実はなるものか

 

■「路地裏探訪」における田口さんのパフォーマンス

・曲順で言うと折り返しに近い位置にある曲ですが、曲順のセトリで行ったジュウゴノシンゾウLIVEの路地裏探訪の盛り上がりは本当にヤバかった…
・製作者のるりまるさんがLiveintroなるものを別個で作成くださっているのですが、このイントロが鳴り出した時の「二度目の始まり」って雰囲気が凄かったなあ。あのライブはバンド形式なんですが、7曲目にしてようやくバンドメンバーが登場するんですよ。コロナの関係で現場にいる人も声は出せないんですが、このLiveintroに入っている歓声のようなサウンドもあってか配信ライブ感が無くてすごい盛り上がりを感じました。(LiveintroはるりまるさんのTwitterを辿ってみてね)
・LIVEではダンスの披露はありませんでしたが、そのあと別の形でダンスパフォーマンスをしっかり見せてくれました。
 
▼【田口淳之介&えとう】路地裏探訪feat.るりまる 踊ってみた【オリジナル振付】


 ・撮影自体は7月中に行われていたのですが、お二人が何を踊ったか知ったのは公開直前でした。えとうさんと何を踊ったのかずっと気になってたけどまさか自身の曲の二次創作だったとは!笑
・ボカロ版と田口さん版はキーが違うのですが、この為にミクさんの声のキーを調整し、田口さんとミクさんのデュエット版としてるりまるさんが作成してくださいました。なんという至れり尽くせり。
・衣装はいつも通りACUOD by CHANUさんのお揃い衣装。田口さんが着てるジャケットは体感3キロはある超重いヤツらしい。多分曲のMVにも出てくるカラスをイメージして選んだものだと思います。 
・ジャズはやっぱりステップが映える!ニコニコは定点カメラだけどYoutubeは足元を特に重点的に映してくれている気がします。曲のリズムに合わせたダンスとステップ、所謂「音ハメ」の美しさこそが彼のダンスの魅力だとずっと前から思っています。リズムに合わせて踊るなんて一見当たり前のことだと思うかもしれないけど、その「当たり前」を当たり前にできる人って意外に少ないんですよ。
・凝った編集だけど背景は真っ白で、所々にそふりどさんのイラストが上手い具合に入っているところに本家へのリスペクトを感じます。カラスかわいい。
・約20センチの身長差が活きている振り付けと位置取り。
 
▼【メイキング】路地裏探訪 feat.るりまる 踊ってみた【田口淳之介&えとう】


 ・振り付けは7割ぐらいえとうさんが考案したものだそうです。えとうさんが約半日かけて作った振付を約15分で振り入れした田口さんを見て度肝抜かれたとか。見ただけで動きをコピーできるってどういう脳の作りなんでしょうね…
・途中で勢い余ってネックレスを千切ってしまう田口さん。これね、初めてじゃないんですよ。前にもELECT踊ってみたでやってるしなんならそれより前にもライブで千切れたネックレス客席に投げてなかったっけ…
・えとうさんのダンスはクールでカッコイイ、と田口さん。女性の踊り手さんは可愛さやファンシーさを前面に出している中、えとうさんはクールな魅力があると。確かに路地裏探訪という曲を二人で魅せるには最高のコラボ相手だと思いました。田口さんよりだいぶ小柄なのにダンスの勢いが負けてなくて、身長差や性別の違いがあっても所謂シンメは成立するものなんだと、そんな新発見がありましたね。
・ファンからのコメントでちらほらあったけどタップダンスしながら踊って欲しさあるよね(希望)。これからの月イチライブの演出に期待。
 

■総括

いやー、聴けば聴くほどに魅力の増すスルメ曲ですね、この楽曲。
曲順で言うと「Miss you」と「慣性スケーター」の間という物凄く難しい位置に入ってくる曲なんですが、ライブでの流れと魅せ方が最高過ぎて自然と曲順まで脳裏に焼き付いています。思えば、J時代も含めてアルバムを今までたくさん聴いてきたのに、アルバムの曲順を空で言える自信があるのはこのジュウゴノシンゾウだけかもしれないです。
 
軽快なリズムやノリの良さが最初は耳に残るのですが、歌詞の内容も濃度が高くて興味深いですね。
「後ろ指を指す人は放っておいて前に進みますね」というメッセージを受け取った時は「それで10倍強希釈なのか…」と思うぐらいの濁った思いを感じました。原液はどれだけ濃いんだろうか。
 
前5曲が割と人間らしい感情を歌詞にストレートに書いている印象だったので、ここに来て初めて「人ではない何か」が語っているような異世界感があって、解釈が物凄く難しくなりました。でも、そういう曲って自分なりの正解をどうにか見つけようと何度も聴いてしまうんですよね。これぞスルメ曲の醍醐味。
 
田口さんとのコラボということを抜きにしても「路地裏探訪」なんてタイトルは嫌でも目に焼き付くし、どんな曲なんだろうと思って思わずサムネイルに手が伸びます。「路地裏」という場所に足を踏み入れることは日常生活ではあんまりないと思うんですが、一応どんな雰囲気の場所なのかの想像はつきます。人通りの少ない建物の影・「表通り」に面していない場所・ゴミ捨て場…。MVのイラストもそういうイメージ通りで、カラスがターンテーブルみたいに擦ってるものが実はボロいガスコンロだったり、「銃撃事件」のピストルが水鉄砲みたいだったりして、そういう遊び心が面白いんです。途中途中で出てくるカラスにも、ニヒルな笑みの女の子にも共通して縫い目のような跡がある辺りは、「食い散らかされてバラバラになった跡」なのかなって色々想像力が働かされます。
 
汚いものも消費期限切れも全部ここに置いていきなよ」というフレーズから「ゴミ捨て場」というイメージが湧きあがりますが、「捨てていきなよ」ではなく「置いていきなよ」という言い方なのはちょっと気になりますね。
そしてその後にも「要らないものも壊れたものも全部ここに忘れていきなよ」と。ここでも「捨てる」という言い方はせず、「忘れていきなよ」という言い回し。「ゴミとして捨てられたもの」というのは、持ち主がそこに手放した時点でこの世から消え去る運命のものですが、「置いていったもの」「忘れていったもの」はまたそこに戻ってきた持ち主が再び出会う可能性があります。
この路地裏にあるものは、これから表通りを生きる上で持っておくには少し邪魔になるけど、捨てられないならここで守ってやろう、という「酸化した思い出」なのかなって全体の歌詞からそう思いましたね。
単に要らなくなったものだったり、過去を払拭するためにやむなく放り出したものだったり色々あるんでしょうが、それは手放したとはいえかつての持ち主の想いがたくさんこもっていて、寧ろ「自分自身」を含んだものでもあります。そんな多くの人の掃きだめが「路地裏」って場所なんですかね。
 
ひょんなきっかけで主人公が足を踏み入れた「路地裏」は決して遠く離れた場所ではなく、寧ろ煩い換気扇一つで遮られただけの身近な場所です。
そこに入った時、自分がかつて遠い昔に手放したものに出会うこともあり、今手元にある要らないものや壊れたものをまた手放すこともある。そんなガラクタたちを今になって「探さないで」欲しいし、でも「乾かないで」欲しいというなんとも複雑な矛盾した感情。
暗い路地裏から飛び立つ主人公に「心配ないよ」と手を振っていたのはこの路地裏の主みたいな人でしょうか。
 
前進するために枷になるものは一旦ここに忘れて行って、前に進んで行こう。持ち歩くには重いけど、決して捨てたくはない。なら、この路地裏で守っておいてもらってもいいのではないか。
もし、いつかまた遠い未来でこの路地裏を訪れた時には黴臭い内緒話でもしようか、とカラスの群れに交じって飛び立つような気持になった楽曲でした。