今日という日は残りの人生の最初の日

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白でも黒でもグレーでもない ―『東京グレースケール』を聴いた感想

こんにちは、アンです。

夜勤明けにこんな文章書いたりしてやること自体は増えてるのに、それが逆に規則正しい生活を作っているのかやたらと元気です。
楽しいことって多い方が良いですね。
 

■東京グレースケール feat.yowanecity

▼Lyrics&Music:yowanecity様

VOCALOID MV

Vocal初音ミク
 
田口淳之介 MV

DirectorSOLO様
Hair&Make原みさと様
StylistKEITA UCHIDA様
CostumeTIGRE BROCANTE様
 

■田口さんによるレビュー・制作過程

・テーマはタイトルにもある通り「東京」。アルバムのリード曲だと思ってる田口さん。
・ボカロとJ-POPのミックスという雰囲気を書きだすつもりで作った。
 とはいえ、言葉数が多くテンポ早めの、ボカロならではの曲に仕上がったと語るyowanecityさん。
 yowanecityさん「どっちかっていうとガッツリボカロになっちゃったっていうか…笑」
・田口さんは「これ人間が歌えるのかな」って少し思った。でもそういうのも「ボカロ曲歌ってみた」という文化の面白い所。
(バッチリ歌えてましたよ!「歌ってみた」っていうか「歌ってみろ」って感じで 笑)
・ジャンルの定まらない曲をいつも作る中、今回みたいな曲はあまり作ったことが無かった。
 作り慣れないものは「ハズレてしまう」リスクもあるので本来はやらない方が良いが、そこで敢えて挑戦してみたいと思った。
・今は五輪もあり、世界的にも「東京」という日本の大都市の話題が多いので、アルバムのリード曲にピッタリだと感じた。
 田口さん「こんなにも『東京』って入る曲あるんだって思った 笑」
・最初のタイトルは「グレースケール」だけだったが、田口さんの要望で「東京」を付け足すことに。
(絶対入れて正解だったと思います。東京が入るだけでインパクト倍増)
 今の時代を象徴する一曲になったと思う、と田口さん。
・MVの撮影も東京タワー前で行ったりして「THE・東京」という仕上がりになった。
・「ボカコレ」というイベントで自身の楽曲をたくさん聴いて頂けたので、それを機会に頂いた仕事を今後は実績として残していきたい、とyowanecityさん。
・「今回の市長さんの曲めっちゃ好きです」と他のボカロPさんからも絶賛のコメントあり。
(どなたが喋ってるか聞き分けられなかったです、すみません)
 

■yowanecityさんのこと

・ジャンルの定まらない独創的なサウンドとドラマーならではのノリのあるビートの楽曲を作る。
 (告知Twitter紹介文より抜粋)
・「市長さん」という愛称もある。(よわね市の市長さん)
 (リリース記念ツイキャスより)
 

■yowanecityさんのオススメ楽曲

▼イシェド

 

田口淳之介ver.MVについて

東京五輪の開会式が開催される7/23にボカロ版・実写版共にMV公開。
(偶然なのか狙ってやったのかは分からないけどちょっと感動)
・監督はsoratoさんという若いディレクターさん。
・早口の歌詞やメロディーの音と合うように撮影するのが結構大変だった。
 電車が来る場面のタイミングがすごくバッチリ。
・東京の街並みが全面に押し出された映像になっているが、実は東京以外の場所でも撮影しているシーンがある。
・青いジャケットは衣装を探しているときに一目惚れしたもの。でも撮影日がピーカンだったので激暑だったとのこと。
(東京の景色とか青い空と馴染んでいて素敵な衣装でした)
・「白黒」の部分に毎回入っている特徴的な振り付けはライブでも皆にやって欲しい。
 

■総括

yowanecityさんとは生活時間帯が合うのか、Twitterでリアルタイムのツイートによく遭遇します。
参加が決まってフォローした時から「ツイートが面白い人だなぁ」って思ってたんですが、田口さん曰く「アルバムのリード曲」とも呼べるカッコイイ曲を書いてくださりました。
 
「東京」を題材にした楽曲って、J-POPでもボカロでも結構ありますよね。
(ここ最近私が好きなのは、Ayaseさんの「幽霊東京」)
そこに込めている思いとしては、東京という大都会が持つ厳しさや焦燥感、でもそんな中にも見える希望、みたいな内容が多いです。
数ある東京をテーマにした曲の中でも、この「東京グレースケール」にはyowanecityさんにしかない「東京への思い」がきっと込められていると思います。
 
曲を聴いてて所々印象に残るのは、「白黒」って歌詞ですよね。
(映像だと田口さんがそこに振り付けを入れているので尚そう感じます)
そして、曲名に入っている「グレースケール」。
」と「」と「グレー」という無彩色でこの曲全体のイメージが出来上がっており、ボカロ版のMVもそんな雰囲気でした。
(イラストのクレジットが見つからなかったんですが、動画制作もご本人様ってことでいいのかな?)
 
『白黒つけたいこの世の未練』
『こっちが悲しいとか 僕だけが一人正しいとか そんなんじゃない』
 例の「白黒」の周辺の歌詞を拾うと、語り手はどうも「白黒つけた意見」やそんな世の中に思うところがある印象。
最近、コロナや五輪関係に関する「東京」の報道を某ニュースサイトでよく目にするのですが、そこについているコメントは毎回白黒はっきりとしたものが多いです。
それに「そう思う」と「そう思わない」の2択で評価するシステムも、大体どっちかに偏ってることが大半なのもなんか嫌ですね。
 
それも、自身の意見というよりは
「あの人が白って仰るのだから白に決まっている」
「アイツが黒だと言うのなら意地でも白だと言いたい」
というような、他人に引っ張られたり跳ね返したりする主張が強いような。
 
中立的な意見は下の方に沈みがちなところを見ると、「何事においても白黒つけることを求められる世の中」になりつつあるのかなぁ、って少し空しい気分になります。
(いや、自分が歳食っただけか? 笑)
 
『君の吐く言葉はグレーのゾーンに帰結しがち』
『その顔じゃ 気を遣われてるのが 手に取るように分からされて Fallin’ down』
『こっちもきれいとか 味があってそそられるとか そんなんじゃない』

 それなら、白でも黒でもないグレーゾーンの主張を大事にする人なのか?と思いきや、そんなどっちつかずな言い方もあんまり好きじゃない模様。

こっち「も」っていう片側を否定しない言い方も、「味がある」「そそられる」といった曖昧な表現も、「そんなんじゃない」と一刀両断されていますからね。
 
確かに、グレーゾーンな意見って柔軟さを感じる一方、「所詮どっちか決められないんじゃん」というもどかしさみたいなものもあります。
どちらも否定したくないって思いも嘘ではないんだろうけど、それよりもっと前面に出ているのはこちらに気を遣っている態度。
白と黒、どちらにも行けない中立的なのも嫌だ、という少し尖った人物像が窺えます。
 
『見たいのは 君しか見てない世界の…』
『見たいのは あの頃見ていた世界の…』

 と、直前にそうやって言う割に自分は最後まで言い切らない形での主張をしていますが、そこに続くのはまあ『東京』ですよね。

(歌詞だと三点リーダだけど、実際に曲を聴くとすぐに『東京』に続くようなメロディになっている)
 
私がこの曲で最も面白いと思う部分は、これだけ無彩色をタイトルや歌詞に盛り込みながらも
 
『そんなnightsは鮮やかだった』
 という言葉で最後を締めていることです。
 
田口さんのMVで真っ先に感じた、「ああ、東京って意外に彩りある街なんだな」という印象。
真っ赤な東京タワー、光を反射して青く輝くビル、夜景のネオン。
恥ずかしながら東京に殆ど足を運んだことのない自分は「白黒のコンクリートジャングル」ってイメージを持っていたので、予想外の鮮やかさに目を奪われた映像でした。
 
そんな「東京って白黒のイメージあるけど、意外にも色の多い街なんだぜ?」という情景に、色を用いた感情表現を上手い具合に絡めることで「自分が見たいのは、君にしか見えない東京の色だ」と唯一無二な感情を求める気持ちを描いてるのかもしれません。
また、東京の夜景の色とりどりの光の一粒として、自分たちも存在するのだという主張だったり。
 
東京といえば、大きな夢を持った人が遠くから集う街でもあります。
夢を追いかけて出てきた時、最初に見た東京の街並みはすごく鮮やかだったはず。
そこからだんだんとグレースケールに染まっていった自分をどうにか否定し、一色に留まらない考えを忘れないようにしたい人間の姿が浮かびます。
 
ところで、この曲における「僕」と「君」ってどういう関係性なんでしょうね。
書き手である「僕」が聴き手の「君」に問いかけているという『弁論説』が最もスタンダードな考え方ですが、「君」と「僕」は同じ世界線上に存在する恋人同士、みたいな『物語説』もアリだし。
ちなみに私は、「君」と「僕」は実はどちらも自分自身、という『自問自答説』が一番面白いなって思います。
 
そんな鮮やかな東京の景色を、しっかり目に焼き付けて帰ってきたい。
初の東京参戦と共に聴いていたい楽曲でした。