今日という日は残りの人生の最初の日

人生を充実させるコツは、より多くのものを好きになること。

舞台『One Night Butterfly』を観た感想 ⑥責任者編

こんばんは、アンです。

 
毎日レポートを書く生活、そんな中にもやはり波は存在し、思い入れが強ければ強いほど筆の進みが遅くなる…なんてこともありました。
特に主役については「あれもこれも…」と書く内にだんだん収拾がつかなくなり、もう無理せずゆっくり書くか…なんて思っておりました。
 
だがしかし、何としてでも今日中に上げねばならぬ。
今日がそう思える日である理由を、今の今まで忘れておりました。
 
そう、本日は田口さんのソロ活動5周年の記念日なんです。(人様のツイートで気づいた)
特にお祝いというお祝いはして来なかった不届き者ですが、今書いているこの文章はお祝いにできなくもないのではないか?いや寧ろ、この5年間になかった仕事である「舞台」の感想が、唯一私ができるお祝いではないか!
 
というわけで、何としてでも今日中に上げねばならぬ。(二回目)
そんな思いで一気に書きました。
 
こちらの記事では、バーレスク・One Night Dreamのオーナーの長谷島さん、ホール主任の黒田さん、そして店長の進藤さんについて書かせて頂きます!
 
※以下、ストーリーのネタバレを含みます。ご注意ください。
※記憶を頼りに書いているので台詞の言い回し等に少々異なる部分がございます。
※長くなります。
 
 

『長谷島大夢』という人

‣長谷島 大夢(はせじま ひろむ)
バーレスク・One Night Dreamのオーナー
‣イメージカラー:ライトグレー
(公式Twitterより)

彼はお店の「オーナー」であり、最高責任者にあたる方です。しかしそう呼ぶにはあまりに責任感がなく、登場する毎に色々とやらかしてます。笑

ただ、どこか憎めない雰囲気と魅力があって、決して嫌な人だという印象はありません。
そんな彼、舞台上には進藤店長の次に早速登場します。一番にお店に出勤して何やら回想に耽っている店長に、彼が最初に発するのは「閉店です」という言葉。
 
舞台のあらすじを見た時からこの展開は知っていましたが、こんなに最初からクライマックスだとは。笑
勿論店長は驚き、「最近客足が悪いことは分かっていたが、どうにかならないか」と打診します。しかし、オーナーの心はもう決まっていました。もう覆らないことを悟った店長、それでも納得できない様子で椅子に座ります。
 
進藤「…で、いつ閉店するんですか?」
長谷島「今日」
進藤「あぁ、今日……今日ぉ!?(椅子バタン)
 
出ました、リアクション芸一発目。そりゃそういう反応になるよね。笑
「座って座って」と促すオーナーに対し、いくら何でもそれは無い!と店長は食い下がり、せめて1か月、100歩譲っても1週間前には伝えるべきだと主張します。
 
進藤「大体、先月お会いした時はそんな事一言も言ってなかったじゃないですか!」
長谷島「言ったよ!!……心の中で」
進藤「いや口に出してください!!」
 
急すぎる閉店宣告に反発する店長を前に、一歩も引かないオーナー。経営難で店を閉める以上、一日でも早い方が良いと思うのは当然。お金を出しているのはオーナーである自分なのだから、と。
終いには「無責任なこと言わないでよ」なんて発言まで飛び出しますが、貴方にだけは言われたくないよ!笑
じゃあせめてオーナーから直接皆に話してくれ、と頼むも「それは進藤ちゃんの仕事でしょ」とこちらも拒否。全てを店長に丸投げして彼は去っていきました。なんてこったい。
 
こんな風に全てを押し付けられてしまった店長ですが、勿論そんな事実を皆に伝える勇気はないわけで。また、それだけではなく「最後まで諦めたくない」という足掻きもあったので、結局スタッフ全員が集まっても伝えることができません。
そんな中、「今日いきなり閉店」となったのには、実は隠された裏事情があったことを知ります。そう、他の記事で何度もお話ししている通り、それはオーナー自身の女癖の悪さが原因で起こったことでした。笑
 
全員からの尋問によって、ダンサーの女の子に手を出していたこと、それも二股であったことがバレてしまったオーナー。しかし彼は、「手を出したんじゃない、それぞれと本気で恋愛していた」と主張します。(うわぁ、遊び人の名文句だ 汗)
本来、こういうお店の男性スタッフが女の子に手を出すなんていうのは即クビ案件。しかも複数人と事に及んだとは。それによる痴情の縺れで、全員がお店を辞めてしまったとのことでした。
そして話の流れで、「二股」どころか実は「八股」であったことが発覚します。所属の女の子の約半数と関係を持っていたという事実に、一同は怒りを通り越してドン引き。
 
長谷島「ある時、『私だけと付き合って』って彼女から頼まれて、でも皆を愛している僕には無理だから、それで断ったら『じゃあ別れましょ』って言われて、そのうえ店まで辞めるなんて言い出して、関係ない女の子達にまで『最低!』なんて言われて…一体僕の何がいけなかったっていうんだ!」
全員「全部だよ!!」
 
うむ、これは全員から総ツッコミを食らわざるを得ない。主任からは「逆に何がOKだと思ったのか教えて欲しいですね!?」と言われてしまいます。っていうか、今回のことの火種ってほぼアンタじゃねえか!笑
それと同時に「この人そんなにモテるのか、すげぇな…」と逆に感心してしまう自分もいました。実際、彼に迫られた魚住さんが乙女のような声を上げてしまう程ですから、その「堕としテク」は確かなようですな。
 
そんな経緯でダンサーの女の子を全員失ってしまったわけですが、それでは撮影ができないじゃないか、と松永ディレクターは『ボーイレスク』を提案します。もしできないなら、違約金を払えと。
おそらく結構な大金であろう「違約金」など払えないオーナーは、二つの選択肢から「勿論ボーイレスク!」と即決しますが、自分はしれっと11人の頭数から外れて逃走。残りの10人に全てを押し付けて逃げる形となりました。(まあ、その後酒井さんが戻ってきたので結果プラマイゼロにはなりますが 笑)
 
…といった具合で、ここまで聞くと「何だ、そのいいとこナシのオーナーは…」と思うかもしれませんが、彼にだってちゃんと良い所はあります。ただのズボラで責任感の無い男であれば、あんなに濃いメンツが全員着いてくるわけないもの。彼から感じ取れる謎のカリスマ性には、ちゃんと理由があります。それはまた後程。
 
松永さんが「全ての元凶」であれば、彼は「全ての元凶の元凶」です。笑
けれども、ある意味このお店が「寂れたバーレスク」から進化を遂げたのは彼のおかげかもしれません。トラブルメイカーで皆を呆れさせつつも、どこか不思議な魅力を纏った「オーナー」でした。
 
▼イメージカラー・ライトグレーについて
――灰色は他の色との協調性が高くどんな色にも馴染みます。自己主張せず周囲の色を引き立てる調和の色です。控えめな上品さがあります。白と黒の間にある色なので無彩色の色ですが有彩色を少し含んだ色も灰色の仲間に含まれるため色の範囲は広く捉えられています。

植木田さんのシルバーのイメージに少し似ていますね。

どんな色にも馴染むというのは分かる気がしますが、自己主張せず…?控えめな上品さ…?(困惑)
しかし、やってることの割には「下品」という印象は全くなくて、寧ろスマートな雰囲気がある。彼に落とされた8人の女性たちは「控えめな上品さ」を彼に感じたのかもしれないですね。お店が再起を図ろうとしたときも、なんだかんだで陰から支えてくれたこの方には周囲を引き立てる力がありました。
 
八神蓮さんのこと
‣八神 蓮(やがみ れん)
‣1985年12月14日生(35歳)
‣身長183cm
‣愛知県出身

情報解禁の際に、実は田口さんと10年前からの付き合いがあることをご本人から明かしてくださいました。お仕事での共演は初めてですが、二人を繋ぐパイプはビリヤード!

(昔、寝る間も惜しんでビリヤードに勤しんでいた彼を思い出しました)
ご自身のYoutubeでも田口さんについて度々お話頂いています。そこで「僕はプライベートの田口くんしか知らなかった」と、なかなかレアなことを仰っていました。笑
田口さんのTikTokでは、DAY.1に映ってます。
元々プライベートで交流のあった方と、10年越しにお仕事で共演できたのは嬉しいですよね。
また一緒にビリヤード行って、SNSに写真とか動画アップしてくれていいのよ。(10年前は無理でしたが、今ならそれができます!)
 
 

『黒田栄作』という人

‣黒田 栄作(くろだ えいさく)
バーレスク・One Night Dreamのホール主任
‣イメージカラー:ディープブルー
(公式Twitterより)

「ホール主任」である彼。店長の次に偉い立場なので、店長不在時の責任者といったところでしょうか。

前述の通り、いろんな意味で責任感に欠けるオーナーと、彼に比べたらまだ常識人だけど少し頼りない店長。そんな二人を直下で支える彼は、とても冷静で先を見据える力のある人です。ツートップがああいう感じですから、彼のようなナンバー2はとても貴重な存在ですね。
(この上に行けば行くほど駄目っていうシステム、組織あるある 笑)
 
舞台上には、お話しした通りオーナーが全てを押し付け去っていったタイミングで登場します。
「オーナー!」と呼ぶも待ってはくれず、一人取り残されて大きな溜息をついているところへ入ってきました。彼の存在に気付いた店長は何事もなかったかのように挨拶しますが、この主任は彼の様子を見て何かを察したようです。
 
黒田「もしかして、閉店の話ですか?」
 
パリーン。店長は思わず持っていたグラスを落として割ってしまいました。分かり易すぎる。笑
慌てて片づけようとする店長に「ああ、やりますやります」と言って、破片を片づけつつ店長の様子を伺う黒田さん。うーん気が利くなぁ。
その表情を見て、彼は改めて確信しました。
 
黒田「…やっぱり閉店するんですね」
進藤「黒ちゃん…エスパーなの?」
 
いやぁ、物凄い洞察力ですね、この方。
「オーナーが来ていて、店長がそんな顔してたら多分それしかないでしょ」とまで言った彼には、もう隠すことなんてできません。店長は正直にさっきの出来事を話します。察しの通りオーナーは閉店の話に来ていたこと、ここのところ経営が厳しかったということ。
「昔はいつも満席だったんですけどね、毎日予約で埋まってて…」と、彼も最近客足が悪いことには気が付いていました。流石だ。
 
黒田「それで、閉店の予定はいつですか?」
進藤「…今日」
黒田「今日……今日!?(椅子バタン)
 
はい、例のリアクション芸2回目。なんだか彼がやるとスマートな感じですな。(そして大城ADへ続く)
「うん、さっき俺も同じリアクションした」と椅子を戻す店長に、「ちょっと理解が追い付きませんね…」と、流石にこの人も戸惑いを隠せない様子で呟きます。オーナー、今すぐ戻って釈明しろ。笑
「あぁでも、一番納得いかないのは店長ですよね」と、どうにか彼は現状を受け入れ、他のスタッフ達にはいつ言うのかを問います。まだ受け入れきれず、店を諦めたくない店長は「言わなきゃダメかな」なんて言いますが、そこは店長としてきちんと伝えるべきだと諭します。
 
黒田「現実を見てください。納得できない気持ちは分かりますけど、オーナーが決めたことなら仕方ないですって」
 
うむ、信頼している彼にそう言われては、店長としてやらればならぬ。彼は渋々ながらもそれを承諾します。
男性スタッフが全員揃ったタイミングで、「店長から大事な話がある」と皆を集めた黒田さん。けれどもやっぱりなかなか言い出せない店長。挨拶だけして終わろうとしたら、案の定黒田さんに制止されます。うう、これはもう逃げられない。
「分かった、言うから!」と降参し、「実はこの店、今日…」と切り出した次の瞬間、その声を掻き消すレベルの爆発音が。それは、酒井さんが途中まで直していたビールサーバーが破裂した音でした。「キッチン、凄いことになってますよ!」とスタッフは全員そこから居なくなります。そしてホールにポツンと取り残された責任者たち。つまりは、何も話せないまま強制終了となったわけで。
 
進藤「…セーフ!!」
黒田「いや、アウトでしょどう見ても!!」
 
何とも往生際の悪いこの店長、土壇場でタイミングを逃したことを心底喜んでいやがる。そんな彼の内心を察してか、「折角こっちがセッティングしてやったのに何やってんだ!」と言いたげな様子の黒田さん。タイミング的に運悪く…っていうのもあるけど、どちらかというと店長が切り出すのが遅かったせいなんだよなぁ。セーフじゃないんだよまったく。
 
そんなわけで、彼は序盤から中盤まで、秘密を共有する唯一の相手になります。
テレビの取材が来た時も「真実を伝えるべき」と言ってくれた黒田さん。でも、ここでもそれを言わずに全く予想に反することを言っちゃうんだこの店長は。笑(そんなことやってるから後々あんなことになる)
この「真実を知る人達」である二人と、「何も知らない人達」である他のスタッフの対比が面白いんですよ。何も知らない人達が盛り上がっている時は大体、こちらのお二人は俯いたり、頭を抱えたりしてます。笑
生で観てる時は目がもうワンセット欲しかったシーン。DVDが出たら巻き戻しながら交互に見たいな。
 
それにしても彼って、真面目な話をしている時に茶化す人達を窘めたり、テレビ関係者を前に騒いでいる人達を叱ったりと、何かと苦労の絶えない人ですね。正直、店長よりもよほどリーダーシップが取れる存在に思えます。
「もう黒田さんが皆に話せばいいんじゃ…笑」なんて思ったりもしましたが、決してそうしないのは「飽くまでこの場を仕切る長はこの人だ」と店長を立てる気持ちが強いからでしょうね。実際、彼は店長と話すときは必ず敬語です。
 
しかし、そんな店長が本当に大事な局面で決断できない時は、「しっかりしやがれ!」と喝を入れられる人でもありました。
まあそんな感じは前半でも見受けられるんですけど、それを最大限発揮する場面はまた後程書かせて頂きますね。
 
騒がしいスタッフ達と、ちょっとカッコ悪い店長の間でお店を支える「ホール主任」、それが彼です。
ボーイレスクとして生まれ変わった後も、その統率力で皆の支柱となって欲しい。そんな存在でした。
 
▼イメージカラー・ディープブルーについて
――「紺」の持つ一般的なイメージでポジティブなものには「誠実・真面目・品格・自律・堅実・厳格・鎮静」などがあります。「内向」などもあります。
少しネガティブなものには「抑制・緊張感」などがあります
また、「直観力・インスピレーションにつながる」「本質を見る目が持てる」とも言われています。

ディープブルーを紺色と捉えて良いのかは分かりませんが、一番しっくりくる言葉がたくさん出てきたこちらを引用させて頂きました。(青系統の人多すぎるよ!笑)

どこか呑気な部分のあった店長とは違い、常に冷静な緊張感を保っていた彼。トップ二人がああいう感じなので、こんなカラーを持った補佐役は必要不可欠ですね。
 
斉藤秀翼さんのこと
‣斉藤 秀翼(さいとう しゅうすけ)
‣1993年3月1日生(28歳)
‣身長178cm
熊本県出身

舞台期間中、田口さんと楽屋が一緒だった彼。比較的年長者で構成された5人の楽屋の中では最年少ですが、田口さんとは絡みのシーンも多いしよくお話しする方だったんじゃないでしょうか。いつも「淳さん」と呼んでくださっていたそうです。

田口さんのTikTokでは、DAY.2に映ってます。
場面はテーブル稽古中。初っ端から掛け合いの台詞がたくさんあるし、初期の方から接点が多かったかもしれませんね。田口さんより7つ下ですが、落ち着いた雰囲気があるので舞台上ではちゃんと主任の風格がありました。
こちらの方も勿論初見ですが、キャストさんの中では酒井さん役の服部さんと並ぶぐらい個人的にはお気に入りでした!運良くチェキが当たって良かったです。
 
 

『進藤直之』という人

‣進藤 直之(しんどう なおゆき)
バーレスク・One Night Dreamの雇われ店長
‣イメージカラー:パープル
(公式Twitterより)

お待たせしました、真打ち登場。彼こそがお店の「店長」であり、舞台の主役となります。普通は一番最初に書くべき存在なんですけど、切り札は最後まで取っておきたいじゃないですか!

スタッフ達から絶大な信頼を持たれている店長ですが、「クールでカッコいい」といったイメージではなく…寧ろ、どちらかというと少しカッコ悪くて頼りない部分が目立ちます。笑
でも、そんなところも含めて皆から愛されるんだろうな、と素直に思える店長でした。
 
進藤「あの日、何気なく入ったその店で、俺の人生は変わった。煌びやかな店内。鮮やかな照明で彩られたステージ。美しいショーガール達の艶やかなダンス。店中にポジティブなエネルギーが充満し、気づけば客席に居る誰もが笑顔になっていた。それが、俺とバーレスクの出会い」
 
彼のこの語りから、舞台は幕を開けます。
「人生が変わった」とまで彼に言わせたバーレスク。一体どんな所なんだろう、と自然とワクワクした気持ちになります。ステージには実際に、鮮やかな照明とショーガール達の姿がありました。
 
進藤「皆様、バーレスク・One Night Dreamへようこそ。今宵は皆様を夢の世界へお連れしましょう。イッツ、ショータイム!」
 
いよいよ始まった、という気持ちも束の間。店長の力強い掛け声も音楽も、オーナーの「閉店です」という言葉で全てシャットダウンされます。気づけばショーガール達の姿も消えていました。
まさに、始まりにして終わりの瞬間といった状況。(舞台の演出といえばそれまでだけど、この時の進藤店長はイメージトレーニングでもしてたのかな。笑)
 
そう、物語の始まりは「閉店を告げられたバーレスク」という場所です。それにしたっていきなり過ぎる…なんてこちらが呆気に取られている内に、前述の通り店長とオーナーのやり取りが始まるわけです。
最近は空席が目立つようになったこのお店は、なんと今日で閉店!(多分この舞台上に例のウイルスは存在しないと思うんですけど、夜の世界は色々と厳しいからなぁ)
 
店長である彼は、スタッフの皆にそれを伝えなければなりません。しかし、自分の口からそれを伝えることを躊躇ってしまいます。あまりにも急なことで言い出せない、という思いも勿論ありましたが、それだけではありません。「これからのこともあるし、少しでも早く伝えないと」という黒田主任に、彼が返した言葉はこうです。
 
進藤「俺が皆に言ったら本当に決まっちゃうよ?もしかしたら、最後の最後に何かが起きるかもしれないし」
黒田「何かってなんですか」
進藤「えぇ?…うーん……『奇跡』!!」
 
…ああ何だ、ただの悪足掻きか。(辛辣)
それから続々と出勤するスタッフ達が盛り上がるネタは、通りの向かいにある「ロザリオ」の閉店の噂。このお店とほぼ同じ状況で潰れたそのお店に対して、彼らの口からはこんな言葉の数々が飛び出していました。
 
「閉店のこと隠してたんだろ?」「本当バカっすよね!」「隠してもいいことなんかないのに!」「黙ってれば何か起きるとか思ったんじゃねえの?奇跡!とか」「ないわぁー!」「奇跡ってただの現実逃避じゃないですか!」「大人としてどうかと思いますよね?」
 
もうやめて!店長が恥ずかしさと罪悪感で死んじゃうから!!笑
彼らの発言に顔を覆う程の羞恥を感じながらも、結局この店長はその後からもずっと閉店の事実を告げられず、ただ悪戯に時間だけが過ぎていきます。いやいや店長さんよ、諦めないって心意気は立派だけど、じっと黙ってるだけじゃ何も変えられませんぜ?
 
なんて思っていると、突然舞い込んできたテレビ取材。
「これはチャンスだ!」と目の前の希望に縋りついたは良いものの、その希望はあっという間に打ち砕かれてしまいます。まあ、そんなに上手くはいきませんよね。
ダンサーの女の子が辞めてしまった。それも全員。ここはただの居酒屋ではなく、バーレスクです。ショーを魅せる女の子が居なきゃ話にならないんです。それは、店長である彼が一番よく理解していること。
 
進藤「分かってます!?うちはバーレスクなんですよ!女の子たちが居なきゃ店を開けられない、どうやっても終わりじゃないですか!?」
長谷島「分かってるよ!だから閉店するって言ってんじゃん!!」
 
責任者たちのこの会話で、初めてそこに居る全員がこの事実を知ることになりました。店長としてはここまでどうにか引き延ばしていたつもりでしたが、全て裏目に出る結果となります。だってこれ、状況的にもタイミング的にも最悪だもの。
オーナーの仕出かしたこともさることながら、そんなに大切なことをずっと隠していた店長にも怒りの矛先が向かいます。これじゃあ、あのロザリオと変わらない。彼らが通りの向かいの店をあれだけ好き放題に言えたのは、「自分の店の店長は絶対そうではない」と信じていたからなんです。
 
怒りと失望で荒れている彼らを前に、進藤店長は今まで黙っていたことを謝罪しました。そこで、「最後まで諦めたくなかった」という自らの思いも口にします。
うーん…先ほども同じようなことを言いましたが、彼の良くなかったところは「何かが起きる」という受け身の姿勢だけで、「何かを起こす」という考えがなかったことじゃないのかなぁって思います。最後の一瞬まで諦めないという気持ち自体は称えられるべきものですが、いつも通りに過ごすことを「諦めない」とは言いません。何かを起こすには、今までと違うことをしなければならないのではないでしょうか。
 
しかし、そんな「今までと違うこと」を提示してくれる人物がそこに現れます。
良かった。彼自身が行動を起こせなくても、周りからの助言があれば何とかなるかもしれない。ただ、その助言とは『ボーイレスク』というあまりにも受け入れがたい手段でした。笑
 
そんなことできるか!と最初は拒んでいたスタッフ達。ですが、彼らにも「店を諦めたくない」という思いが胸の奥底に潜んでいたわけで、その思いは店長にだって負けていません。諦めたくない、ならば、やるしかない。
彼らがそれぞれどんな思いでボーイレスクに賭けたのかは、今までの記事を読んできた方なら分かりますよね。
魚住さん、佐々木、宮もん、酒井さん、水嶋くん、天童ちゃん、モッチー、そしてお店の人間ではない大城ADまでもが、その決意を進藤店長へとぶつけます。
けれども、そんな彼らへ店長が返した言葉は信じがたいものでした。
 
進藤「皆、本当にありがとう。でも…ごめん」
 
ああもう店長、アンタ馬鹿だよ。この子達の言葉の一体何を聞いてたのさ。
いくら最強のパーティーが揃っていても、肝心の勇者様がそんな調子じゃ話にならない。貴方のゴーサインが出ないと、誰も進み出すことができないんだよ!!
そんなこちら側の思いを代弁するように、動いたのは黒田主任でした。確かに、ここで彼にガツンと言えるのは店長の次に偉いこの人しかいません。普段は冷静で言葉を荒げたりしないこの人が、初めてその口調を崩して啖呵を切ります。(ここで二人の関係性が見えてくるわけですが、それについては後程語りますね)
今ここにいる全員が一歩踏み出すには、「俺に着いて来い」という店長の言葉が必要なんだと彼は言いました。そんな彼の熱い叱咤を受けて、この頼りない店長もようやく動き出しました。
 
ゆっくりとこちらに背を向け、スタッフに向き直る店長。その瞬間、響き渡るのは彼の何とも表現し難い絶叫。その叫び声に驚く間もなく、なんとこの人は上着を脱ぎ捨て、上半身を露わにして高々と宣言しました。
 
進藤「俺に着いて来い!!」
 
…すみません、ここ、「俺に着いて来い」の前にも絶対に何かとても良い事を言っていたはずなんです!でも、こっちは毎回その絵面が衝撃過ぎて何も覚えてないんだよ!!笑(本当に申し訳ない)
 
彼を目の前にした人達もきっと、同じ心境だったんだと思います。多分何も頭に入ってない。
辺りには静寂の音が響き渡っていました。知ってます?静寂って無音じゃないんですよ。「シーン…」っていう音が本当に聞こえてくるの。この静寂の演技、凄すぎる。よく誰も笑わなかったなって思う。誰か一人でも「ふふっ…」なんて笑おうもんなら台無しだもの。(ここまで一息)
 
進藤「あれ…違った…?こういうことじゃなかった……?」
全員「…………」
黒田「…いや、そういうことなんだけど!…なんでいきなり脱いだのかなって…」
 
はい、仰る通りです黒田さん。本当にその謎のアクション何なの。笑
「いや、青春ドラマとかでよくあるじゃん!?」と進藤店長は弁明しますが、その後はもう収拾がつかなくなってしまいます。若い連中は「いや、青春ドラマ観ないんで」「そういえば昔、市原隼人がさ!」なんて謎に市原隼人の話で盛り上がるし、酒井さんは「よし、俺たちも脱ごう」ってよく分からない忠誠心を見せ始めるし、もうグダグダ。(薄々感じてたけど酒井さんって案外天然なのかな)
 
店長だけをこの状態にしておけない、と自らも脱ごうとするバーテン組を制止して、「いいから!俺が着るから!それでもう一回言うから!」とTAKE2をやろうとする店長。もうやめてくれ、笑い死ぬ。笑
「え、もう一回やるの?」と周りのスタッフは全員次々に笑い始めます。うん、そうだよね。もう笑うしかないよねこんなの。
 
進藤「何笑ってんの…」
黒田「いや、やっぱ進ちゃんカッコ悪りぃなって。笑」
 
言っちゃったよ!そう、この人本当にカッコ悪いんです。大事なことを皆に告げる勇気もなくて、目の前に降りてきた希望についつい縋っちゃって、それが打ち砕かれたときは謝ることしかできなくて、皆が決意を新たにしているのに一人だけ一歩も踏み出せなくて、それで最後はこれ。
店長として一番の見せ場も今一つカッコ良く決めることができなかった彼ですが、それでも皆そんな店長が好きなんです。全員の心を動かした「この店が好き」という思いは、イコール店長が好きなんだということだと言っても過言ではありません。店長を好きになれないお店を、好きになれるわけないんですから。
 
これまたそんな思いを代弁するかのように「でも、やっぱりアンタは最高の店長だよ」と言った黒田さん。店長が着ようとしていたシャツを奪い取って遠くに投げ捨てたかと思えば、彼も同じように脱ぎだしました。そんな主任の後に続くように、他の皆も全員一斉に裸になります。いや何だこの舞台は。笑
(最終的にここで皆をまとめちゃうのも結局は黒田さんなんだよなぁって思いました)
 
…というわけで、ボーイレスクをやる決心を一番最後にしたのは進藤店長です。やっとだ。やっとこれで全員揃った。長かったなぁ。
これだけ長々と書いた割に、最も強調されたのは彼の「カッコ悪さ」なのが申し訳ない。
しかし、何とも言えないこの人の魅力がこれで伝わったのではないかと信じています。
ちょっとカッコ悪くて頼りないところもあるけど、でもそこにいる全員が着いていきたいと思える、そんな最高の「店長」でした。
 
▼イメージカラー・パープルについて
――赤紫〜青紫まで幅広い色域が紫と認識されます。青と赤が混ざり合い多様な色合いが生み出される紫は、感性を鋭くしインスピレーションを高めてくれます。動の赤と静の青、相反する色が共存しているため「高貴と下品」「神秘と不安」など二面性をもっています。場面によって色の性格が変わる複雑な色です。

色々なサイトを見ましたが、この色の持つ最大の特徴は「二面性」であるという結果が殆どでした。

確かにこの店長、一見常識人なんだけど突拍子がない部分もあって、どうも読めない二面性みたいなものが確かにある。また、普段は猫背気味な印象なのに「シンディー」になった途端、背筋がピンと伸びて凛とした姿になっていましたよね。
シンディーの衣装にも、赤系の紫と青系の紫の両方の布が使われています。蝶の種類で言ったら「オオムラサキ」ってイメージかなぁ。中の人が普段身に着ける色ではないんですが、ショータイムではそれを全く感じさせませんでした。
 
田口淳之介さんのこと
‣田口 淳之介(たぐち じゅんのすけ)
‣1985年11月29日生(35歳)
‣身長180cm
‣神奈川県出身

歌手の田口淳之介についてはこのブログで散々語っていますが、役者の彼について語るのは本当に久しぶりです。特に「舞台」については7年振り!

7年って相当長いですよ。前作の「フォレスト・ガンプ」の頃ペーペーの新入社員だった私が、数人の部下を管理する立場になるぐらいの長さですよ!(知らん)
ブランクの長さもありますが、前2つとはまた全然違うテイストの舞台だったので、それも相当大変だったんじゃないかと思います。特に台詞の掛け合いのテンポ感。「フォレスト・ガンプ」は台詞量こそ膨大だけど一人で語る部分が多かったし、「NO WORDS, NO TIME」はそもそも台詞が無かったし。笑
唯一共通しているのは3作とも主演を務めたことですが、前の2作の彼が比較的年少者だったのに対して、今回は内田さんを除くメンバーの中では最年長となっています。(彼自身が歳を重ねたというのもある)
周りの若い役者さん達は、彼を「ストイック」「頼りになる」とたくさん敬ってくださいました。確かにそうです。毎日筋トレして、毎日同じようなお弁当食べて…
でも、寧ろ彼は「それ位やらなきゃ皆に追いつけない」って、少し緊迫したような気持ちで臨んでいたんじゃないかなって思いました。勝手な想像ですけど、そんな気がする。
だって、これまでずっと芝居の本場で鎬を削っていた周りの方と違って、彼には7年のブランクがありますからね。何でもすぐスポンジみたいに吸収できる20代の頃とも違います。35歳・舞台のお仕事は7年振り、という座長が周りに引けを取らないためには、きっと何倍もの努力が必要だったんじゃないかと。
そんなストイックな姿勢が功を奏して、舞台上では素晴らしい演技を見せてくださりました!
声の張り方も、トーンも、テンポ感も、決して他の役者さんたちに負けてなかった。目の肥えた俳優さんファンの方にも、きっと素敵に映っていたと信じています!ショータイムでは流石のパフォーマンス力が活きていました。やっぱり彼は、ステージの似合う人ですね。
今回の舞台は唯一映像化するものなので、たくさんの方の目と耳に届いて欲しいなと思います。
 
 

長谷島オーナーと進藤店長

今回は責任者編ということで、まずはオーナーと店長という関係性のこのお二人について。
設定にもある通り、進藤店長は所謂「雇われ店長」なので、全ての権限を握っているわけではありません。彼の雇い主はオーナーである長谷島さんですが、この二人が雇用関係に至るまでには「とある経緯」がありました。
 
ボーイレスクの準備もそろそろ大詰めかというところで、進藤店長と大城ADはちょっと一息、店内で二人グラスを交わします。そこでふと、大城ADが切り出したのはオーナーの話。ボーイレスクに賛同したにも拘わらず、全てを店長に押し付けて逃げてしまったオーナーを、当の店長はどう思っているのか疑問に感じたようです。
 
大城「恨んでないんですか?全部押し付けられて」
進藤「まあ、戸惑ってはいますけど…恨んではいませんよ。いい加減だけど、あの人は俺に生きる希望を与えてくれた人ですから」
 
ここで、進藤店長は自らの過去について語ります。
今ではバーレスクの店長を務めている彼ですが、かつては普通の会社でサラリーマンをしていたそうです。つまり、初めから夜の世界に居たわけではないのだということ。
これを聞いた私、妙に納得したんですよね。この人、店長という風格は確かにあるのに、夜の世界を生きる人って雰囲気はあまり感じられなくて。(逆にオーナーや黒田さんはすごく夜の匂いがする)
所々で出ている彼の「真面目さ」や「純粋さ」も、元々は昼のお仕事をしていた人だと考えれば納得できます。
 
進藤「要領悪くて、いつも上司に怒鳴られて。正直、毎日『死にたい』なんて思ってました。昼休みは毎日屋上に行って、『ここから飛び降りたら楽になれるのかな』なんて考えたりもして…まあ、結局怖くてできなかったんですけど」
 
「死」というワードがこの舞台で出てきたことにビックリしたのはさておき、この店長の過去、とある人物と重なりますよね。はい、前の記事でも書いた通り、川上くんが置かれている状況と殆ど同じなんです。
追い詰められ方の度合いは進藤店長の方が少し重いような気がしますが、彼もかつてはあんな風にスーツ姿で毎日出社して、オフィスのビルの屋上で黄昏れていた時があったんだなって。
(川上くんが最初に立っていた場所が屋上であると感じた理由はそれです)
 
ある時、限界を迎えて会社を飛び出していった彼。でも何となく家にも帰りたくなかったので、外の店で一人で酒をあおっていました。そんな時、急に声をかけてきた見知らぬ男性。それこそが長谷島オーナーだったと進藤店長は語ります。
 
「何かしんどいことでもあった?」と既に酔っぱらった状態で話しかけてきたその人は、どんなに辛いことがあっても必ず笑顔になれるという「ある場所」へ彼を連れて行きました。そう、バーレスクです。
最初はただ何気なく着いて行っただけの場所。でもそこで見た夢の世界に彼の心は動かされ、ショーが終わる頃にはステージに向かって思いっきり拍手していました。ああ、成程。冒頭の回想はここに繋がるんですね。
 
長谷島「気に入った?実は俺も、こういう店作りたいんだよね」
 
当時のオーナーはまだ脱サラしたばかり。しかし、いずれは自分好みの可愛い女の子をたくさん集めて、バーレスクを経営したいという夢がありました。もし実現したらその時は遊びに来てよ、という会話を交わして、二人は別れます。
そこからの彼の行動といったらとても早いもので、何と次の日には仕事を辞め、夜の世界に入ることを決めます。なんとかボーイとして雇ってくれるお店を見つけ、そこで黒田さんとも出会ったと。
 
進藤「そうしている内に、またあの人と再会したんです。その時もやっぱり酔っぱらってて。笑」
 
再び自分の前に現れた長谷島さんは、既にお店の新装開店の準備に勤しんでいました。そんな彼は進藤さんに「ウチの店長をやってくれないか」と打診しました。なんと、ここで彼は「進藤店長」になったんですね。
(ちなみに、彼を誘った理由は店長候補の人に浮気がバレて逃げられたという、なんとも彼らしいものでした。笑)
 
ああ、やっぱりあのオーナー只者じゃなかったな。あれだけの数の女の子と付き合えたのには、それなりの能力があったからだと確信しました。
彼の持つ最大の能力は、人を惹きつける力です。他人の心の弱い部分を上手く拾い上げて、手を差し伸べるのが本当に上手い。ただ、手を差し伸べると言っても「救い上げる」とか「包み込む」というような優しさを感じるものではなく、「そんな顔しなさんな、楽しくいこうぜ?」と言ってその手を「引っ張る」というような強引なイメージです。
 
事実、この人はかつての進藤店長のような疲れ切ったサラリーマンを、確実にお店に「引っ張った」存在ですからね。ショーの要因としては逃げの一択を取りましたが、「客引き」という重要なお仕事を彼はきちんと果たしていたんです。そう考えると、決してオーナーはお店の再起に対して何もしなかったわけじゃないよなぁ、なんて思います。
 
そんな自分の手を引っ張ったオーナーに、これからも彼は「あの人はああいう人ですから」なんて言いながらずっと着いて行くんだろうな。でも今後はもう少し責任感持ってよね、オーナー!笑
ボーイレスクという新たなスタイルで、この先もっと多くの人に生きる希望を与えて欲しい二人です。
 
 

進ちゃんと黒ちゃん

さて、前の項目では黒田さんの名前もチラッと出てきました。そこからも分かるんですが、進藤店長と黒田主任にも長い付き合いがあります。
黒田さんはずっと店長に敬語で話しているので、なかなかその関係性が想像できません。しかしながら、店長が主任を「黒ちゃん」と呼ぶのには何かありそうだと感じていました。
 
黒田さんが常に持っていそうな「目上の人には敬語で話す」という姿勢。これが唯一崩れるのは、進藤店長の項目ではだいぶ省略した例のシーンです。
ボーイレスクで再起を図る決意を固めた全員を前に、店長の口から最初に出た言葉は「ごめん」というお詫びの言葉。前述ではかなりディスってしまいましたけど、彼はただ自身がやりたくなくてこの言葉を口にしたわけじゃないんです。店長が敢えて全員の思いに詫びた理由は、「これ以上皆を巻き込めない」というものでした。
…いやどっちにしろやっぱりアンタ馬鹿だよ店長!(二回目)
 
いくらになるか分からないけど、違約金についてはどうにか工面する、と彼は大城ADにそう伝えます。そしてお店のスタッフ達にも、今月分の給料と退職金は払えるようにすると。
違う、そうじゃない。そうじゃないんだよ。何故伝わらないんだ…
ここで痺れを切らした黒田主任が、店長を殴り飛ばします。いつも落ち着いている彼からは考えられない行動に周囲は驚き、それは殴られた当人も同じ気持ちでした。
 
進藤「黒ちゃん…なんで?」
黒田「『なんで』?こっちが聞きてえよ。今のこいつらの言葉聞いて、なんで最初に出てくる言葉が『ごめん』なんだよ。なんで金の話なんかしてんだよ。なんで一人で抱え込もうとするんだよ!!」
進藤「…だって」
黒田「だって、なんだよ?」
進藤「…だって、俺は店長だから責任取らないと!」
黒田「そうかよ。じゃあ『俺』は何なんだ?」
 
ここで、今まで見えそうで見えなかった二人の関係性が見えてきます。
黒田さん、かつてはこういう口調で店長と話してたのかもしれないよなぁ…なんて思うような。それは言葉遣いだけではなく、呼び名にも表れます。
 
黒田「進ちゃん、あの時俺に言ったよな?雇われ店長だけど、自分の店持てるかもしれないから着いてきてくれって」
 
ああ、そういう事でしたか。
今のお店で出会ったわけじゃなくて、黒田さんは店長に連れてこられた人だったのね。そしておそらく、前のお店では「進ちゃん」「黒ちゃん」とお互いを呼んでいたと。
(このシーンは前述のオーナーとの話より時系列的には前なので、ここまでは何も分からないんです)
 
つまり「俺は何なんだ」という言葉は、単に「店長と主任」である今の関係性のことを言っているわけではなく、「一体何のために自分を連れてきたんだ!」という心情が吐き出されたものではないかと思います。こんなに皆が一丸になっているのに、目の前の進ちゃんは周りはおろか自分の事すら頼ってくれない。そりゃ殴りたくもなるよね。
 
非常に能力が高く、その分プライドも高そうな人ですから、そんな彼が唯一下に着こうと思った店長への信頼は計り知れないものがあります。
進藤店長って、オーナー程ではなくても結構破天荒というか、なかなか思い切った行動をとる人でもあると思うんですよ。だってバーレスクに出会った次の日に会社を辞めて、全く畑違いの夜の世界に飛び込むなんて、普通の人じゃやらないもの。(追い詰められた人間故の行動力かもしれませんが)
 
そんな彼の性格を知ってか知らずか、「この人とならなんかデカい事やれそうな気がするな」みたいな予感が黒田さんの中にはあったのかもしれません。そして同時に、「この人多分自分がいないと駄目だな」という頼りなさも。笑
まあこういうのは単なる想像でしかないんですが、それでも彼が着いてきたのは、「進ちゃん」に惹かれてやまない何かがあったからだということは間違いないですよね。平たく言えば「好き」なんですきっと。
 
黒田「皆、進ちゃんのこと好きなんだよ。だからさ、言えよ。『俺に着いて来い』って」
 
この台詞が、あの場面に繋がるわけですね。
多分これには「あの時みたいに」って言葉が彼の中では続くんじゃないかなって思いました。
あの時自分を誘ったように「着いて来い」と言えば皆絶対に着いて行く、そんな絶対的な自信を感じた言葉でした。
 
 

あとがきのようなもの

「何がどうしてそうなるんだろう」と、ビジュアル公開の時は率直に思いました。
艶やかなドレスとメイクに彩られた彼らを見て、同じように感じた方は多いのではないでしょうか。
最終形が分かるからこそ、そこに至るまでの過程は全く想像がつかない。ただ一つ想像できることがあるとすれば「彼らは美しい蝶として舞う」という展開だけ。
 
しかし実際に蓋を開けてみると、それは想像以上に「男」が全面に押し出されたストーリーでした。
「夜の世界の男も楽じゃないんだな…」という場面もあれば、「男って本当に馬鹿だよなぁ」なんて思う場面もあり。笑
キャスト全員が男性であるという事実が、思ったよりもずっとガツンと来る内容でしたね。
 
さて、そんな「雄の蝶」たちによるこの舞台、タイトルにもなっている「蝶」には一体どのような意味が込められているのでしょうか。夜の世界で生きる女性を一般的に「夜の蝶」と表現するので、ストレートに考えるとそれしかありません。しかし、何かと深読みしたくなる私は「本当にそれだけかな」なんて思ってしまうんです。面倒臭いでしょう。笑
 
それというのも、少し前に「蝶」という生き物について、こんな話を聞いたことがあるからなんです。
 
「蝶が羽化する確率は、たったの1%しかない」のだという話。

つまり、卵が100個あったとしたらそのうち蝶として飛べるのは1匹だけなんですって。

あとの99匹は、環境に恵まれなかったり、餌が見つけられなかったり、他の生物に襲われたりして、蝶になる前に死んでしまうのだと聞きました。
普段何気なく見ている蝶も、こう考えると決して当たり前に見られるものではないように思えます。まさに奇跡と言えますね。
そして『奇跡』という言葉は、冒頭の進藤店長の台詞の中にもあります。
 
彼らが羽化したのはそれこそ『奇跡』なんですが、その裏側には多くのハードルがありました。
現状を打開したくとも、環境に恵まれず苦悩した人。
出来るスキルを十分に持っているのに、凝り固まったプライドに阻まれそうになった人。
自身の欲望によって、思わぬ機会損失を招いた人もいましたね。笑
 
でも、そんな人たちは皆、残りの1%を諦めなかったからこそ蝶になれたんじゃないかって。
ショーの部分だけを何気なく見ると分からないことですが、そこに至るまでの過程を見ていた人たち(=舞台を見た人)はそれがどんなに凄いことなのか理解できると思います。
 
そしてこれは、現代のエンタメにも同じことが言えるのではないでしょうか。
「環境」や「プライド」や「自身の欲望」が障害となってステージで舞うことができない人、今の世の中にはたくさんいるんじゃないかと。特にこのご時世、「環境」に恵まれないパターンは非常に多いと感じます。
 
即ち、あの時舞台で見た彼らも、決して当たり前に見られるわけではない。
紛れもなく「1%の可能性を諦めなかった蝶」だと言えます。
そんな奇跡の蝶達に、できることならばありったけの「ギャロン」を捧げたい。
心からそう思えた舞台でした。
 
キャストの皆様、関係者の皆様、こんな素晴らしい作品を届けて頂き、ありがとうございました。