今日という日は残りの人生の最初の日

人生を充実させるコツは、より多くのものを好きになること。

こんな時代だった、といつか語れる日まで ―『Cc:京都遊郭にて、空蝉。』を聴いた感想

昨日のライブ最高でしたね。リアタイできませんでしたが後追いでバッチリ見ました。

しかしライブレポはもう少し余韻に浸ってから書きたいので、キーボード故障につき中断していたこちらのレビューを先に上げたいと思います。
どうぞお気軽に…って長さじゃないかもしれない今回。
 

■Cc:京都遊郭にて、空蝉。 feat.水彩画P

▼Lyric&Music&Movie:水彩画P様

▼Bass:ふぁみ。様

Illust(ボカロ版):フォーティーン様
Costume(実写版):ACUOD by CHANU様
Vocal(ボカロ版):初音ミク
 
VOCALOID Ver.

 
▼田口さん歌唱Ver.

 
▼ボカロP対談(shino×水彩画P× 田口淳之介 

 
▼”TA”Good Night LIVE vol.11 -Cc:京都遊郭にて、空蝉。-

 

■田口さんによるレビュー

・「空蝉」とは蝉の抜け殻とのこと。しかし、遡ると源氏物語の「現人」が訛ったもの。この世に生きている人間のことをいう。
・海外に向けての配信サービスの為に各楽曲の英語版タイトルを考えたが、「空蝉」だけは訳せなかった。曲名の訳は「Cc:At the red light district of Kyoto, “UTSUSEMI”」となる。
・「Cc」の本来の読み方は「カーボンコピー」。メールを共有する相手等を指す言葉。自分たちの世界を周りの人もガンガン見て欲しいという遠隔な意味を含んでいる。
・水彩画Pさんの今までの楽曲はアルファベットとカナ文字で連動している。
 「アンビグラムな恋心(A)」→「botan(B)」→「Cc:京都遊郭にて、空蝉。(C)」
・聴きどころとしては日本語独特の美しさ。古典的で情緒溢れる歌詞になっている。
・京都の風情のある雰囲気が全体的に出ている。夜の先斗町辺りの落ち着いた情景を感じ取れる。
・この楽曲には時代設定があるという水彩画Pさん。田口さんの実写MVは過去の遊郭をイメージしたもの、ボカロ版は現代の京都のイメージを描いている。
・水彩画Pさんの楽曲「botan」は、この楽曲のアンサーソング
遊郭の女性が感じる愛の形を、女性目線で語ったようなリリックになっている。
・田口さんVer.のMVに出てくる言葉は「他愛」と「深愛」。遊郭には「その場所だけでの泡沫の時」みたいなものがあり、その中にある想いを「白粉で隠した」ような女性の気持ちを描いた切ない歌。大和撫子特有の奥ゆかしさが表現されている。
・ボカロVer.のMVに出てくる言葉は「牡丹」。牡丹の花言葉は「誠実さ」「恥じらい」「富貴」。そこから水彩画Pさんの以前の楽曲「botan」に繋がる。
・考察ができる曲。日本人らしい奥深さを曲を通して感じて欲しい。
 

■制作過程

・水彩画Pさんは公募による参加。
・一番最初に水彩画Pさんにお会いした瞬間、「この人とはフィーリングが合う!」と確信した田口さん。会ったその日からボカロについて凄く話し込めた。ボカロに可能性を見出すきっかけ、やりたいことを話していくうちに、みるみるレゴが積んでいかれるように話が重なり、結果ボカロJUNctionの立ち上げに至った。
・その経緯で出会ったのがベース奏者のふぁみ。さん。ベースで楽曲に参加して頂けることになった。水彩画Pさんの出会いからボカロ界隈の方との出会いが一気に広がった。(今回、この楽曲に携わった水彩画Pさん、ふぁみ。さん、フォーティーンさんが全員チャットに参加)
・ふぁみ。さんのベースは躍動感がある。田口さん自身も学生時代にベースを弾いていたが本当に難しい。フレットもデカいし弦も太いので、独学であんなに動かせるのは凄い。
 田口「あんなに楽しそうにベース弾く人がいるんだ、って」
・田口さんVer.のMVは水彩画Pさんのアトリエで二人で一緒に撮影した。水彩画PさんのTwitterティーザー動画あり。
 田口「俺がラーメンの話してる途中に曲始まるっていうw」
 水彩画Pさん「フルでアップしたいですね、ラーメンのくだり」
・動画編集も水彩画Pさんが担当。京都の町並みのストリートビューや制作中のリモート動画も出てくる。コロナによる自粛の時期でもあったので、敢えてその現代の雰囲気感を出そうと思った。実は撮影しようと京都までドライブしようと思っていた水彩画Pさん。(しかし自粛中につき実現ならず)
・ボカロVer.のイラストを担当したのはフォーティーンさん。看板のネオン感に現代の京都の雰囲気が出ている。フォーティーンさんは洋服のレース感等細かいディティールに味があり、女性を描くのが上手い。背景の看板にリリックが出てくるMVとなっている。
 水彩画Pさん「実写編集より大変でしたね、、、」
・水彩画Pさんとふぁみ。ちゃんとはライブで共演したい。(実現しましたね…)
 ふぁみ。さん「水彩画さんとスラップ対決ですね!笑笑」
 水彩画Pさん「おお!いいですね、フォーティーンさんドラム叩けます?」
 フォーティーンさん「楽器は全然です!!ww」
 (このチャット会話面白過ぎた。フォーティーンさん巻き込み事故
・こんなに才能溢れる人たちとプロジェクトを通して出会えたのが本当に嬉しい。
 田口「凄い人集まっちゃいましたよ」
 水彩画Pさん「田口くんの人柄あってからこその話ですよ」(私もそう思いますよ)
 

■水彩画Pさんのこと

・ボカロPデビューしてからまだ1年程。だいぶ謎に包まれている人。ボカロ自体は10年程前から聴いていたものの、最近になってやっと重い腰を上げた。
 水彩画Pさん「お手柔らかにお願いします」
・ボカロを使って音楽を作ろうと思った理由は「ボーカロイドは裏切らない」から。初音ミクのようなバーチャルの存在と混在するような世界を表現したい。
・最近はコロナ渦により、世界の音楽シーンがリモートに切り替わっている。でも、ボーカロイドは元々リモートスタイルなので、他のジャンルより一つ先に行っていたのだと思う。
・基本的に日本のポップスが好き。ちょっと懐かしいメロディーを意識している。
・「アンビグラムな恋心」は処女作にしてニコニコ動画の再生数10万越え。好きな曲を出していこうと思っているだけだが、聴いてくれる方が多いのは嬉しい。
 (自分の意思を主張しつつ、田口さんの質問の意図も決して否定はしないところがいいですね)
・イラストをコンセプトにして活動している方々と出会えるのがボカロPの活動での面白さ。
・ギタープレイがとにかく超絶すごい。水彩画Pさんのチャンネルを見た時に田口さんが真っ先に気に入ったのは「botan」。そして、「乙女解剖」のギターカバーに衝撃を受けて、この人なら良い曲を作ってくれると思った。
・制作にあたって、田口さんに「どういう顔でお会いしたらいいんだろう」と思った水彩画Pさん。でも田口さん曰く実際会うとイメージとはだいぶ離れていたらしい。トリコロールカラーの派手なジャージで来られた。
 田口「めっちゃ派手だったw」
・音楽に対しての思いや経歴を水彩画Pさんに聞いてみると、すごく頼りになると感じた。
・水彩画Pさんは西日本の出身の方。基本的に西日本の方とは感覚が合うので直感で話が合うと感じた田口さん。
・制作以外でも、ボカロJUNctionの方に注力していて水彩画Pさんと一緒に時間を過ごすことが多かった。グッズの制作会社やYAMAHAさんへの挨拶にも一緒に行ってもらい、密な感じだった。
 水彩画Pさん「今年一番会ったんじゃないかなw」
 田口「俺もそう思うw」
 水彩画Pさん「週7で会ってましたねええ」
・他の楽曲で気になった曲はオゾンさんの「What Color」。
 水彩画Pさん「ボカロJUNction繋がりで唯一お会いした相手なので、どんな楽曲にするか気になっていた」
 

■水彩画Pさんのオススメ楽曲

アンビグラムな恋心


▼botan

 

■「Cc:京都遊郭にて、空蝉。」における田口さんのパフォーマンス

・MVがジュウゴノシンゾウ唯一の実写映像なので、この時点で田口さんのパフォーマンスが見られます。カメラアピールと共に即興の日舞のような振付が入っています。多分、花魁のイメージじゃないかな。現代の映像だし衣装もCHANUさんの洋装なのに、どこか前時代的で和の空気を感じます。赤紫が映える衣装は、意識したかどうか分からないけど「牡丹」のイメージなのかなと。
・普段、機材とかカメラマンとか演出家とか色々備わった環境でMVを撮っていた田口さんにとって、個人のアトリエでたった二人で撮るMV撮影は凄く新鮮で面白かったんじゃないかと想像できます。
・ジュウゴノシンゾウLIVEでは水彩画Pさんはバンドマスター、ふぁみ。さんはベーシストとして出演。また、ボカロ版絵師のフォーティーンさんも現場に観に来てくださっていました。チームCc京都勢揃い。
・作者(水彩画Pさん)と奏者(ふぁみ。さん)と演者(田口さん)が同じ画面上で、しかも生でのパフォーマンスをする姿と言うのはやっぱり熱いものがありましたね。水彩画Pさんはこの曲になって初めてステージに登場されるのですが、そこから全体がグッと引き締まった感じがしました。2番のサビで田口さんと水彩画Pさんの2ショットが抜かれた時は、作者(クリエイター)と演者(パフォーマー)が揃って改めて曲として完成したような不思議な感覚でした。
・その後もチームCc京都の繋がりは続いているようで、皆様田口さんのダイヤモンドフェスを見に来てくださったとか。水彩画Pさんとも一緒にギターを買いに行ったり新しいメロディーを生み出したりと、良い関係のようです。一回の共演で終わらない繋がりをこれからも大事にして頂きたいですね。
 

■総括

曲自体の濃度も去ることながら、制作過程の厚みとか各方面との繋がりが強すぎて、全体的にボリュームのあるレビューになるだろうなとは思っていました。水彩画Pさんも凄い人ですけど、その人を150人から引き当てた田口さんも凄いよなぁ。
今も水面下で色々動いているようなので、それが表に出てくる日を心待ちにしております。
 
さて、肝心の楽曲についてですが、これはかなり考察に時間を要する難しい曲ですね。
使用されている言葉は全て調べないと意味が把握できないものなので、歌詞を読み解くのにはちょっとやそっとの想像力では事足らないものがあります。
とりあえず、MVの中でフォーカスを当てられていた言葉について考えてみます。
 
 
他愛【読み】タアイ
他人の幸福を願うこと。
 
深愛【読み】シンアイ
心から深く愛すること。
 
牡丹【読み】ボタン
春の花。富貴。誠実。
 
空蝉【読み】ウツセミ
蝉の抜け殻。現身。
(楽曲MVから抜粋)

 …ちょっと難しすぎるというか、深すぎてこれだけでは世界観をなかなか想像できないですね。

でも、曲のタイトルでもある「空蝉」は聞き慣れないながらもちょっと気になる言葉ですのでもうちょっと深堀してみましょうか。
 
 
そもそも「空蝉」とは、「うつしおみ」が「うつそみ」を経て音変化した歌語。もとはこの世に姿を現した人の意味。平安時代にはこの世ははかないという思想と結びついて、蝉の抜け殻や単に蝉のことを指す。

「空蝉」は「現人」が訛ったもの、ということを知った時は「どうしてそうなったの?」と思いましたが、この世は儚いという思想からのものだと思えば少し納得できる気がしますね。

ニュアンスから感じ取ると、「羽ばたけぬ運命」という言葉にはこの場だけの泡沫の時というか、昇華されない儚い恋心が含まれているのではないかと思います。しかし、「儚い」という共通点から「この世に現に生きている人」と「蝉の抜け殻」が「空蝉」という一つの言葉に宿るって、日本語というのは実に不思議な言語ですな。
 
でも、そんな儚い思いも「botan」という楽曲に繋がり、どのようにその気持ちが咲いたのかを表現されています。
MVの中の少女が持っている花は「白い菊」から「赤い菊」に変わります。
曲名は「牡丹」なのに歌詞にあるのは「菊」という不思議。
田口さんがタグラブで牡丹の花言葉について語っておられた通り、牡丹の花言葉は「誠実」や「富貴」ですが、この花は色によって花言葉の意味が異なるものではありません。
対して、菊の花の花言葉というのは色によって少々意味を変えていくものなので、少女が手にしている花が色を変えていくのは思いの移り変わりを表現しているものだと思われます。
 
 
――白い菊の花言葉は、「真実」「あなたを慕う」「誠実な心」。
英語でも「Truth(真実)」。
縁起のいい花言葉が並ぶ白い菊は、結婚式のブーケや装花の一部として使われることもあります。
また、仏花や献花に使われるなど、思いやりや慎みの心を表す花として使われています。
 
――赤い菊の花言葉は、日本語でも英語でも「あなたを愛しています」「I Love You(あなたを愛しています)」と情熱的なもの。
バラの花束を贈るのはちょっと照れ臭いというあなたは、赤い菊を恋人にプレゼントしてみるのもいいですね。
 

成程、白い菊から赤い菊への心の移り変わりは、「他愛」から「深愛」への移り変わりと少しリンクしているような気もします。真白な誠実な思いに少しずつ色づいていった結果が、情熱的な深愛に変わったというようなイメージでしょうか。

一朝一夕で理解するには非常に難しい歌詞ですが、聴き手の思うがままに考察するにはとても興味深く、何度でも聞きたいと思える楽曲です。
 
曲の解釈はここで完結させるのは難しい部分がありますが、今回の楽曲を含め水彩画Pさんの曲に強く感じたのは、時代背景をリリックやメロディーに強く反映させているというスタイルです。
実写版とボカロ版で魅せた過去と現代の京都、「空蝉」という言葉が持つ二つの意味、現代では使わなくなった美しい日本古来の言葉。どれを取ってもそれぞれの時代を深く感じさせるような言葉遊びや映像だと思います。
同じプロジェクトに参加されたR Sound Designさんは「時代を反映させ過ぎて色あせてしまう言葉を使わないようにしている」とのことでしたが、水彩画Pさんは敢えてその時代を深く感じさせる要素を楽曲に取り入れているような印象があるんですよね。(またそのRさんが水彩画Pさんの楽曲を「気になる曲」として挙げていたのも面白い)
時代の変化によって色褪せない音楽と言うのも勿論素敵ですが、数年後、数十年後に聞いた時に「ああ、そういう時代だったな」と感じるような要素も、曲の持つパワーであると私は思います。(所謂懐メロ)
 
実写版のMVには、水彩画Pさんと田口さんとふぁみ。さんがリモートで制作している様子が途中に織り込まれています。
ティーザーで「この映像がどう入ってくるのか…」と田口さんが仰っていますが、水彩画Pさんが敢えてこの映像をMVに入れたかった理由も「その時代を反映した映像制作」という目的であれば理解できます。
今、世界中がコロナ禍という未曽有の事態に陥っていますが、この事態も数年後には「そんなこともあったね」と語られる時が来るのではないかと。未来がどうなっているのか、それがいつの話になるのかは全く予測がつきませんが、この決して良いとは言えない状況も「懐かしい思い出」としていつか話せる時が来たら、この楽曲や映像もその中の一つになると信じています。
たくさんの人が苦しみ悩んだこの時代を「良かった」なんて言うことはこの先決してないとは思うんですが、音楽シーンにおいて配信がメインになったり、遠隔で制作するようなスタイルというのは「それはそれで良かったかもね」と言える部分もあるように思います。月に一回気軽にライブを見れるというのも配信ならではだしね。自粛ムードは不便ではありますが、通信が発達した時代であったというのは不幸中の幸いではないでしょうか。
 
「この曲で初めて水彩画Pさんと共同制作したんだよね」「この時の月イチライブは楽しかったよね」と、いつか皆で懐かしむ時が来るかもしれない。
そんな未来への希望を感じた、思い出深い楽曲でした。