今日という日は残りの人生の最初の日

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たかが人間、されど人間 ―『ジュケの不死帳』を聴いた感想

こんにちは、アンです。

今日も今日とて楽曲レビュー。舞台までのカウントダウンも兼ねて、しばらく夜勤明けのルーティンにします。
今回はちょっと長くなりそうな予感。
 

■ジュケの不死帳 feat.コウ

▼Lyrics&Music:コウ様

VOCALOID MV

Illustezu様
Bassrins様
Tonal markショウ様
Vocal:flower
 
田口淳之介 MV

DirectorRYUTARO FILM様
Hair&Make: 原みさと様
StylistKEITA UCHIDA様
CostumeColumbia様
                      GOLDY様
      somnium様
      TIGRE BROCANTE様
 

■田口さんによるレビュー・制作過程

・ジュケの不死帳のタイトルの意味について。
 「ジュケ」はジュ(ンノス)ケ。
 「不死帳」は田口さんの事務所である「Immortal」をイメージした言葉。
・不死帳はジュケが持っているノート。「感染」がテーマである曲の中で、感染に対しての抗体を持っている人を旅の中で探し、リスト化している。
・曲中の「ミア」という子には抗体がある。(田口さんの飼い猫であるニアと聞き間違える人多数)
・そんなミアにジュケは会いたいけど、抗体の無い彼が会ってしまうと感染のリスクがある。
・歌詞には少し重いストーリー性があるが、メロディーはとても爽やかなロック調。
・コウさんと田口さんは、企画の前から既に直接会っている。
・初対面はボカロの即売会「ボーマス」にて。
 前回のコラボ相手のノイさんとコウさんがボーマスでコラボしていて、「田口くん今から来るみたい」と急に言われた。
 コウさん「田口くんここに来るの!?って 笑」
・池袋サンシャインシティの会場で一般の方に紛れて参加していた田口さん。(結構緊張したらしい)
 特に周りから声をかけられたりはしてない。
 コウさん「いや、オーラやばかったですよ。こう、CDがガタガタって…笑」
・基本的に暗い歌詞と人の生き死にに関するダークな世界観を自分の持ち味としており、そこに田口さんの明るい滲み出る優しさと、笑顔と、ピースフルな感じをどう融合しようかと思った。
・田口さんからは「僕の得意なジャンルに寄せなくてもいいし、コウさんのロックな部分を押し出して」と言って貰ったので、そのまま形にすることにした。本当に一緒にやりたい人しか選んでない、という田口さんのメッセージを受け取りつつも、「浮いちゃうんじゃないか」という不安はあった。
・MVが本当に爽やかでビックリしたので是非見て頂きたい、とコウさん。
 最初にMVを制作すると聞いた時は、「あ、じゃあ僕だけ選ばれたんだ」と思った。
 コウさん「皆はボカロ版MVだけど、コウさんの曲は実写MV撮りましょうってことかと!」
 victreamさん「それ僕も思いました…」
 コウさん「思いましたよね!?」
 田口さん「この3週間でMV8本撮ったわけよ 笑」
・前作「ジュウゴノシンゾウ」で実写MVは「Cc:京都遊郭にて、空蝉。」の1曲だけ。
 実際撮ると「やっぱ実写いいな」と思い、前作よりもっとボカロ版と見た目の違いを出したかったので8本全部撮ることにした。
・自身が投稿するMVではあまり見られないような、突き抜けた明るさが表現されていてとても良かった、とコウさん。
 コウさん「まあ、(実写MVがあるのは)僕だけじゃなかったですけど…笑」
・アーティストさんに既存のボカロ曲をカバーして貰う機会はあるが、一から作って提供するのは初めて。
 

■コウさんのこと

・「鳴る小説」をテーマに、音楽で物語を紡ぐボカロPさん。
・代表作「メアの教育」を始め、唯一無二の世界観・キャラクター性のある楽曲で注目を集める。
・医師、そしてシンガーソングライター「清水コウ」としての顔も持つ。(「ボカロP+医師+イケメン」なんて属性持ち、Rさん以外にも居たんですねえ…)
 (告知Twitter紹介文より抜粋)
・他の作品も意味合いが深いものが多いので、是非一緒に聴いて欲しい。
 (リリース記念ツイキャスより)
 

■コウさんのオススメ楽曲

▼ミアの暗号

 

田口淳之介ver.MVについて

・ボカロ版とはキーが少し異なり、田口さんの声で歌えるキーに調整してある。
 どの曲も仮歌を貰った時にキーやアレンジを調整しているらしい。
・監督はRYUTARO FILMさん。今回のお仕事で初めてご縁があったとのこと。
・上空からのアングルはドローンを使っての撮影。ゴープロ(激しい動きへの対応や防水機能のあるアクションカメラ)や自撮りカメラも使用しており、カメラに凝った作品になっている。
・朝の4時に東京を出発して撮影に行った。撮影場所は伊豆高原・大室山。
(ラスサビのダンス、あんな一歩踏み外したら海に落ちそうな場所でフォーメーションチェンジするの怖くなかったのかななんて思った 笑)
・アルバム内で唯一ダンスでの共演者がいる作品。
(ダンサーさんのお名前とリンク見つけられませんでした、すみません)
・6月の梅雨時期にも拘わらず当日は幸運にも夏場れとなり、爽やかな映像が撮れた。
 
(余談)YouTube公開されたMVを友人に自慢していたら、「曲始まりで田口さんが着てるシャツが可愛い!超欲しい!」と特定に躍起になっていたので、ダメ元で「特定求む」という旨のツイートをしたら親切なフォロワーさんがリプライしてくださいました。
「HUF」というブランドのパルプフィクションコラボシャツという代物で、生産数が少ないのもあり入手が難しいらしい。そ、そんなん言われたら私も欲しくなったじゃないか…
 

■総括

アルバムの予約の時、「タイトルからして面白そうな曲ばっかり!」とワクワクしていたのですが、中でもずば抜けたインパクトがあった曲名が「ジュケの不死帳」でした。
だって、「ジュケ」も「不死帳」も明らかにこの曲にしか出てこないワードじゃないですか。
 
コウさんの曲は、独自に編み出したキャラクターが出てくるシリーズものであることは予備知識として持ってました。
しかし、まさか「ジュケ」という人物名を田口さんの名前から取っていたとは!
「不死」にも彼の会社名である「Immortal」の意味を含んでいると聞いて、なんだかすごく有難みを感じましたね。
(ちなみに『これも勝運か』という昔からのファンが反応せざるを得ない言葉が入っているのが偶然なのか意図的なのかは分からない)
田口さんとのコラボ曲を、決してイレギュラーとしてではなく自身の大切なシリーズの一環に加えてくださったことを、とても嬉しく思います。
 
さて、そのコウさんのシリーズの一曲である「ジュケの不死帳」はこういう歌い出しから始まります。
 
『最終回らしいから』
 …さ、最終回?
私はてっきり前作の「ミアの暗号」との二部構成だと思っていたんですけど、二作で終わるならこういう言い方はしないよなあ…
それで改めてコウさんのチャンネルを巡回してみたら、どうも他シリーズと全部繋がっているみたいです。
(ボカロ版のジュケの不死帳の該当部分には「絶望」「忘却」「血痕」の文字が出ている故)
 
ジュケが書きだしたリストに出てきた人物と曲名、それが属するシリーズを纏めると以下のようになります。
 
メア:『メアの教育』(忘却日記)
ネア:『ネアの幻遊』(絶望接種)
ナイト:『ナイトの正夢』(忘却日記)
カグヤ:『カグヤの灯篭』(絶望接種)
ナツキ:『4月44日』(忘却日記)
レイン:『レインの絵画』(絶望接種)
ソラ:『4月44日』(忘却日記)
レク:『レクの空走』(絶望接種)
ユマ:『ユマの失明』(忘却日記)
ナツオリ:『死んではいけない』(絶望接種)
 
お、多い…多すぎる…!
しかも、時事ネタを暗喩したストーリーかと思いきや、一番最初の曲はコロナ渦よりもっと前に出ておる。
そんなに前から今に繋がっているのが純粋に凄いなぁって感じました。
(世の中の流れや自分の気持ちの変化に沿ってストーリーが変わっていったのかもしれませんが)
 
本気で考察するなら全シリーズの全曲をじっくり聴いた上で…と思い、全て1周してはみたんですが、ボカロにわかの私が1周聴いたぐらいで全貌が掴めるわけもなく。(聴く前から知ってた)
この感じ、私が10年前ぐらいにハマった「七つの大罪シリーズ(悪ノP)」を思い出すなぁ。
全部裏で繋がっていそうではあるものの、決して時系列順に並んでるとは限らない所がまた難しいっていう。
 
ぶっちゃけ今全てを理解してここに書くのは無理なので、最も関わりの深い「ミアの暗号」と絡めてこの曲を考えてみようと思います。
まずは、二つの曲中の世界観から。
 
2041年、NILD-4と呼ばれるウイルスが猛威を奮う時代。
 人々は特殊なマスクを装着しなければ生きていけなかった。』
 
『NILD-4は、「宿主の死期が感染者に伝播する」ウイルス。
 故に死期が近い高齢者や、自殺志願者は隔離対象となる。』
 
『電脳世界移住計画。
 ウイルス感染を逃れるため、生命の電子化が為された世界。
 これ以上この世界に居続けたら、もう戻れない。』

 本作の主人公であるジュケは、この「電脳世界」に飛ばされたんですよね多分。(もうこの時点で予想が怪しい)

「ミアの暗号」を聴いた時、ジュケは自らの意思でそこに行ったのだと思っていましたが、「ここから出してくれ」って言ってるのでどうも本人は不本意だったのではないかという印象。
 
『電脳世界でもこんなに空は青いのか』
『ここではマスクを外していい』
『ここは理想郷だ』

 「電脳世界」はデスクトップの中の世界。ミアが見つめる先にあるものです。

(確かWindowsXP辺りの初期画面ってそんなんだったような)
 
最初に聞いた時は「何それ超いいじゃん」とか思ったんですけど、(頭の悪そうな感想で申し訳ない)
そこではどうしてマスクを外してもいいんだろう?電子化された生命だからウイルス関係ないってこと?
いや、それとも隔離対象じゃない人だけが電脳世界に移住するから、感染の心配がないってことかな?
 
…うーん、凄い技術だけどそれって本当に「生きてる」って言えるんだろうか。
 
『ここから出るにはパスワードが必要なようだ』
 ほほう、パスワードとな。これは「ミアの暗号」でも求められてましたが、電脳世界って入るのにも出るのにもパスワードが要るんでしょうか。
いや、入るとか出るとかじゃなくまた違う世界線や時間軸にアクセスしたりできたりして?
曲中で「SETSUNA」と「END NIGHT」ってコードが出てくるけど、意味はまだ分からない。
(SETSUNAは「サラの刹那」が絡んでいそうなことぐらいしか…)
 
『ジュケ、感染者のリストを渡せ』
薄気味悪い笑みを浮かべるミアが画面の外から見ている。
『いや、これはミアじゃない』
『こんなことができるのはミアの父親しかいない』

 ミアのお父さんは、「忘却日記」シリーズに出てくる「ナイト」という人物だという説が濃厚。

NILD-4について調べているジュケを見て「私のお父さんと同じだね」だとミアが言っていた通り、ジュケもナイトも同じウイルスについて研究をしているようですね。

しかし、同じものを研究していながらも、『未来を創るための道具』は二人全く違うんじゃないかと私は思いました。
 
『ミア、僕が持ってるのは感染者のリストではない』
『NILD-4の抗体を持っている人間のリストだ』

 ナイトが如何なる人物なのか、「ナイトの忘却」からここに繋がる情報は見つけられないのだけど。

電脳世界の基盤を創った人、ジュケを電脳世界に送った人、ミアのふりしてデスクトップ越しに話しているのがナイトだとしたら…(最後のはあんまり自信ない)
 
画面の向こうのミアだけどミアじゃない人(仮にナイトとする)が要求したのが「感染者リスト」である一方、実際にジュケが持っていたのは「抗体者リスト」です。
この抗体を持っている人間のリストこそが「不死帳」ですね。
 
「感染者リスト」と「抗体者リスト」って、似てるようで実は目的が全然違うと思います。
感染者を隔離するためのものが感染者リスト、ウイルスに抗うためのヒントみたいなものが抗体者リストだとしたら、ナイトとジュケはウイルスに対して異なる対抗策を練っていんじゃないでしょうか。
コウさんもジュケの不死帳は「感染に立ち向かう人間の歌」だって仰ってましたよね。
 
これ、感染に立ち向かう『人間』っていうのが重要なんじゃないかな。
「電脳世界」では感染することなく生きられるのかもしれませんけど、電子化された生命は最早人間とは呼べない気がします。
飽くまで人間の形を保ったまま、ウイルスに抗いたいというのがジュケの思惑としてあるのかもしれません。
 
そう考えると、田口さんのMVが「ミアの見た理想郷の大草原」だという最初の解釈も間違いに思えてきました。
あの映像の彼はとても人間らしい生命力に満ちていましたからね。
実写MVの監督がこの曲をどう捉えたのかとっても気になるんですが、ジュケが空のキャンバスボードに描いた「新しい未来」はあの映像だと信じてます!
 
『それでも一緒にいたい』
 ミアは、パスワードを入力して電脳世界に入り、ジュケを探します。
ジュケのいる理想郷で一緒に生きるためかなぁって最初は思ったんですが、「あなたがいる現実を選ぶ」って言ってるから違うかも。
電脳世界で一緒に生きるためじゃなく、ジュケを連れ戻すために入っていったとかだったらそれも素敵だなって思います。
 
…と、ここまで長く語っておいて「田口ファン全然分かってないよヤレヤレ」ってコウさんのファンに思われないかすんごい心配。
シリーズをずっと聴いている方ですら考察段階のものが私なんぞに分かるわけないので、矛盾や見落としはご容赦ください…
(考察は、「分かること」より「分かろうとすること」に意義があると思っております)
 
でも、「これだけは間違いない!」ってことがあるので最後にもう一つだけ。
 
『死ねない理由 誰にもあって』
 ボカロ版MVと実写MV、全然雰囲気違うなあって思う中で、ここだけは歌詞の意味が両方の映像とリンクしてるように思えました。
なんか、どちらにも「生きたい」っていう強い意志をすごく感じて。
コウさんのシリーズはまだまだ履修不足。しかし、「死ねない理由」はリストの中の全ての人物が持っていそうだということは分かります。
それは多分、「愛する人と一緒にいたい」っていう気持ちかと。
物語の中だけでなく、コロナ渦の現代を生きる私たちの中にも存在する理由ですね。
 
医師でもあるコウさんの命に対する心情が綿密に描かれたような、そんな楽曲でした。