今視える世界は、自分一人の幻かも ―『DEEPEST』を聴いた感想
お久しぶりです、アンです。
待ちに待った田口淳之介×ボカロP企画第二弾!楽曲レビューをどう書こうかとずっとウズウズしておりました。
どうぞ暇つぶしにでもお読みくださいませ。
■DEEPEST feat.victream
▼Lyrics&Music&Arrange:victream様
▼VOCALOID MV
・Illust:tsumoi様
・Vocal:flower
▼田口淳之介 MV
・Director:TOGUCHI様
・Hair&Make:原みさと様
・Stylist:KEITA UCHIDA様
・Costume:ACUOD by CHANU様
■田口さんによるレビュー・制作過程
・普段はポップ系の楽曲が多いが、今回は「新しいジャンルに挑戦したい」「HIPHOP系の曲を作りたい」というvictreamさんの意見を取り入れた。
・最後のバス(声域)部分にこだわり有り。
・制作時は、コロナ禍ということもあり会社をクビになった時でもある、とvictreamさん。
(それはDEEPESTだ…)
そのこともあり、今までの明るい自分とは別で「世の中に対する訴え」のようなものを田口さんに説明して曲を作った。
田口さん「それは…歌詞を読むと点と点が線になったね」
・他の方のMVを観た時に、彼氏目線の作品がすごく良いなぁと思った。
victreamさん「俺もあの…『DEEPEST』で彼氏目線のやつ欲しかったです」
田口さん「あの曲調で!?笑」
(その後、ボカロPさん達が「彼氏目線の田口さんカッコイイ」ってクロストークをしていますが誰が誰か分からず文字に起こせない 笑)
・『DEEPEST』を最初に聴いた時、1曲目に持ってこいだと思ったという田口さん。ダンスも映える楽曲になった。
・MVはエフェクトをガンガン入れた攻めた仕上がりになっている。宇宙空間、未来空間といったイメージ。
victreamさん「撮影は2000…何十年代でしたっけ?」
・victreamさんが「衣装は全部購入されたんですか?」と聞くも電波不良で田口さんに届かず。
リアタイで聞いていた時、他のボカロPさん達は会話できていたので田口さんにだけ聞こえていなかった模様。
(ツイキャスで改めて聞くと誰かギターの弦でもはじいているように聞こえる 笑)
victreamさん「良かった、田口さんにガン無視されたかと思った…笑」
・夜の23時過ぎに対談していた中、victreamさんは明日お仕事なので途中離脱。
(今は無事にお仕事されているようで何よりです)
■victreamさんのこと
・海外のファンが多く、彼自身も普段から英語でファンと交流している、界隈では稀に見るグローバルなアーティスト。
(告知Twitter紹介文より抜粋)
■victreamさんのオススメ楽曲
▼灰に揺蕩う
■田口淳之介ver.MVについて
・監督は「Stay True」や「Take You Away」でもお馴染みのTOGUCHIさん。同アルバム内では「アンブレラ」のMVの監督も務めている。
・CG満載の編集が入っている。撮影時はCGと合成するのでグリーンバックでの撮影になると聞いていたものの、こんなに凄い効果の入ったMVになるとは思ってなかった。
・VRを装着するシーンでは、スタイリストさんの提案で左耳にリング状のイヤリングを着けている。
(これ、ピアスを開けてない彼にとってとんでもなく希少なアクセサリーなのに最初に誰も突っ込んでないの驚いた。でも田口さんがするとまるで「どこにでも居る普通の男」を強調するかのようなアイテムに感じるので不思議)
・VRを見ている途中で何者かにハッキングされるという設定。
「深い闇の底でも視えるものがあるんじゃないか」というvictreamさんのメッセージが映像にも込められている。
(VRの世界に引きずり込まれたのかな?とコメントしたら「そんな感じです」とのこと)
・MVのラストの方で、ボカロ版にも出ているイラストの色違いがサブリミナル効果のように一瞬だけ映っている。描かれたのはつもいさんという方で、victreamさんイチオシの絵師さん。
(最初見た時は東京喰種の石田スイさんの絵かと思ってビビった)
・楽曲の衣装は田口さんと馴染の深いACUOD by CHANUさんのもの。同アルバム内では「猛毒」と「DUMMY」のMVでも同じブランドの衣装を着ている。
■総括
聴き手にとっても歌い手にとっても期待と緊張の「1曲目」。それはおそらく作り手にとってもそうでしょう。
MVのティーザーもダンスシーンから始まり、なんだかDIMENSIONSのオープニングの壮大さを思い出しましたね。
しかし冒頭の歌詞を聴くや否や「なんて救いの無さそうな歌詞なんだ…」と圧倒され、ひょっとしてこのアルバムは全体的に闇属性のテーマが組まれているのではないか?とすら想像してしまいました。
(他の曲もどこかタイトルから切なさや闇を感じるの多かったし…)
そんなことを思いつつも、ボカロ版のMV・田口さんのMV・制作過程なんかを聞くうちに「もしかすると、これはむしろ『堕ちていくこと』に救いを求めた人の曲なんじゃないか?」という解釈に至りました。
田口さんのMVでは、VRのゴーグルを着けてバーチャルの世界に入るところから始まります。
そこに映るのは人類には早すぎる映像というか、近い未来に深層Webから発見されそうな動画というか…(もっとマシな表現ないんか)
彼曰く「2045年の世界」だそうで、こんな映像を3Dなんかで見てたら、まるでそのうち自分が特別な人間のように錯覚しそうですね。
『類稀な才能に溺れてた』『僕は特別な人間だと信じてた』
Aメロの歌詞でもこのように語っていますが、これらは全て過去形で表現されています。
つまり、「実は違ったのだ」という前提がある上で語っているわけで、冒頭の畳みかけるような救いのなさの正体はそれですね。
『突き出された現実に目を伏せた』
曲の1番が終わった後、「ERROR」の文字が画面いっぱいに出た辺りからどうも様子がおかしくなります。
おそらくさっきまで見えていた仮想空間が急に遮断されたのかと思いますが、まさに「突き出された現実」に目を伏せたくなった瞬間を表現しているのでしょうか。
でもねぇ、そういう思い上がりと現実への直面みたいなことって、日常でも心当たりがあったりします。
今思えば痛いんですけど、もっと若かったころは自分は何でもできると思ってたし、どこにでも行けそうな気がしたし、自分は周りとは違う何か特別な才があるって、心のどこかで思ってませんでした?(私は恥ずかしながらちょっと思ってた 笑)
だからその思いを信じて疑いもせず、思わず口元に笑みを浮かべている自分に
「いやそれ思い込みだから。なに本気にしてんの」
なんていうようなことを急に言う人が現れて、自分が今まで見ていた世界が嘘のように消える瞬間がありました。
「VR」というアイテムで表現しているのでカッコいい映像になってるものの、リアルなシチュエーションを想像するとかなりキツいです。
(人はそこから成長するとか何とか言うけど、その状況に直面している時の自分はとてもじゃないけどそんなこと思えないっていうかそんなん知らん。)
上みたいに「急に現実を突きつける人」は酷いことするなぁと思いますが、実際のところ傍から見た自分は「VR見てる人」並みに間抜けに見えてたのかもしれません。だって、周りの人には自分が視てる世界が見えないんですから。
そんな事実に直面した後の人間が取る行動といえば、
『伸びすぎた一輪の花を見た 切り捨て整え個性を捨てた』
といった具合に表面上だけは周りに合わせて生きることなので、2番Aメロの歌詞は更に絶望感と虚無感が凄いです。
これだけだったら「夢見てたのに急に現実に引き戻された人」の曲ですが、次の歌詞を見たら『ナイフを振りかざしてこの世を裂くだけ』という唯一残された道があるようです。
うーむ、ナイフでこの世を裂くっていうのをどう受け取るか?
個人的には『この世界を壊して作り変える』というポジティブな考え方ではなく、『現実を切り裂いて見えなくする』というネガティブな印象が強いですね。
まあ、中間地点にやや難しい表現があっても、結局一番言いたいことや曲の落としどころは歌詞の一番最後にあるもんです。(強気)
『僕は僕のまま堕ちていくさ』
…ああ、結局難しいことに変わりはなかった。(これぞ絶望)
でも多分「堕ちる」って表現から見るに、現実直視して自分の生き方を変えるわけではなく「幻だろうが何だろうが僕は僕の世界で生きていく」という思考に落ち着いたって考えるのが一番自然なような。
それと、「現実世界には誰も何も求めない」みたいな諦めの境地に近いものも感じます。
我が道を行くっていう純粋な前向きさとは絶対に違うことは、曲全体の雰囲気が物語っていますよね。
そもそも、曲の題名である「DEEPEST」の訳って何だ?と考えると個人的にしっくりくるのはメリーバッドエンドです。
――deepの最上級。(下に向かって)深い、 底深い、 深さ…の
ERRORの瞬間は一瞬全身が硬直したものの、ラストは仮想空間の彼とシンクロするように踊りだしている現実世界の彼。
最初はただ浸っているだけだったのが、最後は完全に同一化してしまったように見えます。
前述でも言った通り少し不穏な終わり方ですが、本人的には幸せな展開だったのかも。
MVの主人公はボカロ版も実写版も、どちらも最後は幸せそうな笑みを浮かべていますよね。
最初からクライマックスと言わんばかりの1曲目。
「自分と他人は視えている世界が違う」という独特な感情を、壮大なサウンドと世界観で表現した楽曲でした。