今日という日は残りの人生の最初の日

人生を充実させるコツは、より多くのものを好きになること。

無意味は最大の意味 ―『DIDA DIDA DIDA』を聴いた感想

過去の記事で貼った各ボカロPのオススメ楽曲のマイリスを聴きながら過ごす休日。

ボカロ自体は10年以上前から聴いてますが最近の曲はサウンドの進化がえげつない…
良い具合に音楽に浸れたところでまたまたレビュー書きます。サラッと読んでください。
 

■DIDA DIDA DIDA feat.左手

▼Music&Lyric:左手様 
Illustしろくろ様 
Vocal(ボカロ版):初音ミク
 
VOCALOID Ver.

 

▼田口さん歌唱Ver.

 

▼ボカロP対談(平田義久 × 左手 × 田口淳之介

 
▼“TA”Good Night LIVE vol.4 -DIDA DIDA DIDA-
 

■田口さんによるレビュー

初音ミクとは声のトーンが全然違うので、ボカロ版とキーは同じだけど田口さん歌唱版は1オクターブ違う歌声。人とボカロの聴き比べが面白いのがボカロ文化ならでは。
・1番の聴きどころとしてはノリの良さ。サビの裏どりでリズム感の良いハイハットが入って、勝手に体が揺れるような軽快なリズムがある。
・AメロからBメロにかけてのドラムのキメは流石ドラマーさんの作った楽曲といえる。
 田口「シンプルだけどインパクトがある」
・左手さんが思う聴きどころは歌詞。所々に左手さんの音楽への愛を感じるエッセンスが入っている。「雑にさらった楽譜」とか「君だけの音になる」とか。
 田口「『サステイン』ってなんだ?って思うじゃん?」
 サステインの意味を調べたら「楽器の音が出た後の余韻・残響」という意味らしい。
・「DIDA」という言葉自体に意味はない。
 左手さん「あえて意味のない単語をサビに入れたかったんです」
 田口「やっぱりそうなんだwでもこのリズムを言葉にしたらそれしかないよね」
 

■制作過程

・左手さんは公募による参加。
 応募したきっかけは「野心」。このプロジェクトを知ったのは平田義久さんの告知によるもの。
・左手さんとは電波工作でも繋がりがあったので知っていたし、人とは違うボーカロイドの面白さを表現できると思った田口さん。
・左手さんと共に制作を行う中で、最初はもっとラップ要素の強い曲だった。
 左手さん「ガチガチのヒップホップでしたね…笑」
 でも途中で「こっちの曲の方が田口さんっぽいです」と1曲丸ごと変えたものを頂いた。
 左手さん「ダメだっ!こんなんじゃダメだっ!って思って…」
・左手さんから見た田口さんのイメージは飄々としてトリッキーな感じ。それを自分の曲で表現するにはオシャレな作風にしたいと思ったが、具現化するのが本当に大変だった。
・レコーディングの時はこの音楽独特のノリやリズム感を殺さないように意識した。ラップと歌と中間点のような歌い方にしている。
・歌っていてハモリが楽しかった。ハモリは田口さん自身で考案。サビの部分はオクターブ下の低いハモリが難しかった。もう自分の声じゃなくてもいいんじゃないかって思うくらい。
・合いの手の「HEY!」は全部田口さんの声。4つぐらい音を撮って重ねた。
 

■左手さんのこと

・フリーの作曲家さん。ボカロ楽曲の投稿や「合成音声と人間のライブ」を行っている。
iPhone一台で作曲を行っている。(まさに「神の左手」)
 最近ようやくPCを手に入れたのでこれからはPCで作曲を行っていく予定。
 田口「これからは『両手』さんに改名ですか?w」
・対談では平田義久さんとご一緒に出演。平田義久さんとは「ただならぬ関係ですよ」(チャット欄、「ただならぬ」に反応しすぎw)
 平田さんが同い年のボカロPと仲良くなりたいと自身の企画に左手さんを招いてくれた。でも実は二人は同い年ではないとのこと。
・「しゃべるボカロとボカロP」というアルバムでも平田さんと共演。4人のボカロPとボカロの「会話」を主としたアルバム。100年後の左手さんと初音ミクが喋っているという設定のトラックの左手さんの演技力が半端ない。
 左手さん「死ぬまでに本気で演技してみたいという夢があった」
・左手さんは九州の方。地方に住んでいることもあり、あまりフィジカルなイベントに参加したことはない。
・中学生の頃に日本のロックバンドにハマり、音楽に興味を持った。元ドラマーさん。ある日平沢進さんの音楽に衝撃を受け、打ち込み系の音楽を作るようになった。
・ボカロを好きになったきっかけは「初音ミク滅茶苦茶可愛いな…」っていうオタク心から。田口さんとのやりとりで左手さんが絶対にミク「さん」と呼ぶので気になっていた。キャラクターとして初音ミクを好きという気持ちと、自分の楽器としての初音ミクへの愛情は別物。
 キャラクターとしての可愛さを語るときは「ミクさん」、楽器としての話をするときは「初音ミク」と呼ぶ。
 田口「初音ミクさんは存在される方なんですね?」
 左手さん「いや、存在しないですね」(!?)
 平田さん「彼のTwitter見てても全然意味が分からないwけど、一朝一夕で分かられても困るんで…」
・電波工作で左手さんの楽曲「論理ノ眼球」を紹介した経緯あり。
 田口「中毒性のある楽曲をすごく作るなあって」
 外部の方がボカロに興味を持ち、番組まで作ってくれるという機会がなかったので、大きなことが始まりそうな気配を感じた。
・田口さんが左手さんの楽曲で一番好きなのは「デミヒューマンエチュード」左手さんの音楽の魅力はドラムとシンセサイザーだと思う。耳に残る印象的なフレーズが多い。
・左手さんが他の楽曲で気になった曲はsavastiさんの「祈るほど後悔」。
 左手さん「この人の曲を田口さんが歌っている、という感覚がどうしても出てくる中、この曲はサウンドと田口さんの歌声がガツンとマッチしていた」
 

■左手さんのオススメ楽曲

▼論理ノ眼球

 
デミヒューマンエチュード

 
▼或る永遠

 

■「DIDA DIDA DIDA」における田口さんのパフォーマンス

・ライブにおいて、観客全員ができる簡単な振り付けを入れたいという彼の意思を込めたパフォーマンス。サビの「D」の振り付けは非常にダイレクトで良い、分かりやすい。しかし、D motionといいDIMENSIONといいDIDA DIDA DIDAといい、彼は何かと「D」にご縁のある方ですね。Dの意思かな。
・サビの振り付けもいいけど、そこにかけての盛り上がりや間奏部分の振り付けもポップで楽しそうで可愛いです。「浅ましい夢から醒めた優しいケモノ」「新しいことしか興味がわかないもの」の独特の手の表現は田口さんらしさが全面にあふれていると思います。
・ライブ初見である友人もこの曲とパフォーマンスは目と耳に焼き付いて離れなかった模様。ノリのいい楽曲だしサビはリズムに乗るだけで成立する曲なんで初見さんに優しいと思う。
 

■総括

ジュンゴノシンゾウにおいて、左手さんがオファー枠ではなく公募枠だったのは意外だったなあ。
電波工作では何度もお名前をお見掛けする方だったし、彼をきっかけに1番好きになったボカロPさんなので個人的にはすごく嬉しいです。
 
「DIDA」という言葉は私も調べてみたけど見事に何も出てこなかった…。
後に意味のない単語であると判明するのですが、田口さんの言う通りこのリズムを表現するにはこの言葉が一番的確であると言わざるを得ません。
「このサビは意味のある単語ではなく、そのリズム感を最大限表すための単語」という思いには、田口さんのコスモシティ楽曲の「Never Lose My Vibe」と近しいものを感じましたね。
あの曲には「誰もが捕食者さ」とか「隠した牙を磨き上げる」なんていう、「獣」のような要素が2番の歌詞によく取り入れられているのですが、サビの一番印象的な「Uh-un-un-ah-」自体には何にも意味がないんです。でも、この曲の持つ獣の声を表すにはそれ以外ない歌詞だと思います。
DIDA DIDA DIDAにも「獣」という単語は出てくるので、それはちょっとした素敵な偶然ですね。
 
タグラブのチャットには制作者である左手さんにもご参加いただいております。
そこでちょうど歌詞の話になった時、楽曲全体への想いとしてこのようなコメントをくださっていました。
 
 左手さん「意味を考えるとか、頭を使うって、実生活でもうウンザリしてると思うので、この曲を聴くときくらいは何も考えずに楽しもうというメッセージです」
 
この曲はサビ以外は割と綿密に意味のある言葉を慎重に紡いでいる印象があるのですが、所々に散りばめられているワードには「音楽」に関するものが多いです。
サステイン」という聞き慣れない言葉もありますが、特に頭を使うことなくサラッと歌詞に当てはめているのが印象的。
無駄に飾ったって七面倒」「ドレスコードも礼儀作法も君を縛るものはここにはない」「雑にさらった楽譜でひこうか」という歌詞には、ただただ純粋に音楽を楽しむことをこれからやっていきたいという意思を感じます。
ジュンゴノシンゾウLIVEの後半のMCで言った「楽しくやっていきたいよね、やっぱ音楽って楽しいからさ」という言葉には、純粋に音楽を楽しもうとする彼の「原点回帰」のようなものを感じ、この曲の歌詞ともリンクしているような気がします。
 
これまで彼は20年以上音楽活動を行っています。比率で言うならインディーズレーベルよりメジャーレーベルの活動のほうが長いです。
でもその中にはたくさんの制約やしがらみもあって、思うようにやれなかったり、「音楽は楽しいものである」という初心を思わず忘れてしまうような厳しいシーンもあったと思うんですよ。
そんな中、「君を縛るものはここにはない」場所に飛び込んだ「優しいケモノ」さんが見つけた、新しい音楽のカタチ。
9月に入ってからは制作に入っている旨をファンに報告したり、エレキギターを入手しようとオススメをフォロワーさんに募ったり…
これらの内容からおそらくそこには誰かしらボカロPさんがフォローに入っているような気がするんだが、誰なんだろうなぁー。多分、あの人なのかなぁー。
 
田口さんは今までリリックを作ることはあっても、音の部分を1から作るタイプではなかったので、今水面下で動いているものが表で花開く日を心待ちにしています。
制作中の曲がボカロ曲であるなら皆でボカロP名つけてあげようねー!
 
それにしても、音楽って楽しい。音楽っていいもんだ。「DIDA DIDA DIDA」はそんな風に感じた楽曲でした。